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金原は山根の上の引導に人差し指を当て顎の先になる地閣に親指の腹を当てた。指の股に『ふっ』と息を吹きかけると武下の前から消えた。武下はソファーの下や机の下を捜し回る。窓ガラスを叩く音がする。金原が外で笑った。武下はびっくりして後ろに引っくり返る。金原はハンチングを外して頭を掻いた。大きなフケが風に乗り舞い上がる。一閃の光が空を切り裂くと鳩ほどの鳥が現れて金原のフケを食い漁る。
「癪、呼んでないぞ」
癪と呼ばれた動物は金原の師匠である天海仙人から褒美でもらった虫の仲間である。癪はフケを全て飲み込んでから空の切れ目に消えた。
「分かってもらいましたか」
引っくり返った武下の脇を後ろから抱えて起こした。
「ああっ」
金原が恐ろしくなった。
「恐がらなくてもいいでしょ、お父さんが見せろとせがんだんだ」
武下は深呼吸をして息を整えている。
「どうやら本物のような気がする」
それでもまだ疑っている。
「わしを殺しに来たのか、それにあの鳥は何だね、気持ち悪い」
「あれは癪と言ってあれで虫の仲間なんです。仙人の垢や霊を食して生きています。今は私の下で動いてくれています。あれでなかなか可愛いとこあんですよ」
「わしの願いを聞き付けて来てくれたなら大昔のことは忘れてくれないか。あいつが総理総裁になればろくな世の中にはならなかったんだ。それで仕方なく消し去ったんだ。世の掃除をしただけだ」
「ほら白状した。駄目ですよ、地獄行きです」
「これほどお願いしても駄目なのかね」
「ええ、駄目です。人殺しは地獄に落ちることになっています。まあ例外もありますけどね」
「例外とは何だね、わしにも当て嵌まるのかね?」
あくまでも生に執着している。
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