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「やばい、本格的に降ってきた」
壮真はパーカーのフードを目深にかぶり自宅まで走る。
「ただいまー」
子供の頃に事故死した両親の代わりに高校まで入れてくれた叔父と二人暮らしの家だった。ドアノブにかけられたビニール袋を手に、立て付けの悪い玄関ドアに苦戦しているとドアが開いた。
「お帰り。びしょびしょじゃない。傘持って行かなかったの」
「結衣さん」
「お姉ちゃん、でしょ」
自称、姉の吉田結衣。近所のマンションに住む、二十八歳の会社員である。中学生の頃、クラスメイトに暗い性格をからかわれていたところを酔っ払った結衣に助けられたのが交流のきっかけだ。
「鍵はどうしたの。まさか、勝手に合鍵作ったとか言わないよね」
「その手があったか。冗談よ。おじいちゃんが開けてくれたのよ」
「……またか」
「あっ。こらっ。濡れた靴下で入らないの」
「うるさいなあ」
濡れた靴下を洗濯機に放り込み和室へ向かう。
「おじいちゃん、あのさあ」
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