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雨の日に壮絶な別れを経験した結衣は、雨が降る度にやって来てはご飯を食べ、飲んで暴れてスッキリしたところで自宅に帰って行く。
「お母さん、そっか。今日は息子くんとデートか」
自称母の山口佳名子は、数年前に離婚した夫との間に中学生の息子が一人いる。親権が夫にある為に決められた日にしか会えないらしい。
「惣菜なんていいのに」
「あのね、あんたの事も心配してんのよ」
「分かってるよ」
佳名子が働いているスーパーマーケットで、ウロウロしている所を声かけられ、何かと世話を焼いてくれている。息子にしてあげたいことをやっているだけの自己満足だと申し訳なさそうに笑った。
「兄さんはまだ諦めてないの、この家売るの」
「ややこしい言い方しないでよ。あの人は不動産会社のおっさんで、いわば敵側だから」
自称兄の山本樹は、駅前の不動産会社で働く三十五歳。最初は資産の査定で訪れたが、結衣や忠志と話しているうちに意気投合し、妙にこの家に馴染んでしまった。今ではこの家をどうしたいのか聞いてもいつもはぐらかされる。
「父さんは今日は夜勤か」
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