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自称父、中村正直(まさなお)は偶然にも佳名子と同じ五十六歳、ビルの警備員をしている。この家で唯一肉親である叔父、井上貴志とは麻雀仲間だという。当の貴志は都内で会社員をしているが、生真面目な性格で麻雀をしている時だけ性格が変わるなど聞かされても信じられなかった。
「あれ? 今日の日付に赤丸印がついてる。何かあるのかな」
「本当だ。夜勤とは書いてないけど、大事な用事があるってことかしら」
カレンダーがいつの間にか他人の予定で埋め尽くされ、空白だらけの日常が雑然としたものに変わった。
「叔父さんは今日も遅いの」
「うん」
貴志はこの風変わりな家族ごっこを容認していた。貴志も長らく一人暮らしが続き、顔には出さないが家が賑やかなのが嬉しいようだ。
「今日は宿題は? ご飯の前にやっちゃいなさいよ」
「……うん」
結衣は隙があれば姉らしい事を言いたがる。
「ご飯は炊いておくから」
さも当然とばかりに持ち込んだエプロンつけ、鼻歌混じりに米を研ぎ始めた。ご機嫌な鼻歌を聞きながら数学のノートを開くと腹がぐうと鳴る。
「姉ちゃん、腹減った」
「夕飯まで待てないの?」
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