2016年

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2016年

 二〇一六年。十七歳の真治は県内トップの学力を持つ高校へ入学し、大学へ向けて放課後まで勉強三昧でした。部活には入らず、居場所は図書室がメインになっていました。友達も作りませんでした。誰かとコミュニケーションを取ると、不真面目になってしまいそうだったからです。とにかく、自分を誘惑する要素は取り払って生活をしていました。仲間はキャンパスノートや参考書、あとはシャープペンシルくらいです。人間とはほとんど関わりを持ちませんでした。  真面目の仮面。真面目の仮面。僕は真面目の仮面を被っているから、真面目です。真治はそう言い聞かせながら、毎日自分を鼓舞する日々を送りました。目指す場所は東大です。もう、そこ以外は眼中にもありませんでした。 「はい、夜食ね」  毎晩のようにおにぎりを握ってくれるお母さんは、仏でした。 「ありがとう、母上」  真治自身も催眠状態にかかっているようで、勉強をしていないと落ち着かない身体になっていました。中学までは抱いていた煩悩も一切なくなり、欲望も東大合格以外は消滅していました。
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