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彼女の言葉は懇願に近いものがあった。僕はますます混乱してしまった。
「え、演じる?」
「はい。兄の前で、私の兄を演じてください。私たち二人の様子を見れば、もしかしたら兄の記憶が戻るかもしれないでしょう?」
「……」
「そうすれば、兄は私を認識するようになるはずです」
僕はようやく理解した。彼女はお兄さんの記憶を取り戻そうとしている。そのために、僕にお兄さん役を演じさせようとしているのだ。
「分かった」
僕は彼女の頼みを受け入れることにした。彼女の必死さが伝わってきたからだ。僕が了承の言葉を口にすると、彼女は安堵の表情を浮かべた。
「良かった」
「ただ、一つだけ条件がある」
「はい、なんでしょうか」
「僕が君のお兄さんを演じるのは、一度きりだ。二度目はない」
「構いません」
「もし、君が君のお兄さんを取り戻せなかったら、その時は諦めてもらう」
「……はい」
彼女はしっかりと僕の目を見て返事をしてくれた。その瞳は微かに潤んでいた。
「……じゃあ、早速行きましょうか」
「えっ、行くって何処へ?」
「もちろん兄のところです」
「いや……その前に色々と準備しないといけないんじゃないのかな?」
いきなり演技しろと言われても困ってしまう。
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