仮面少女が笑うとき

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 ただ、何だと言うのか。僕が続きを促す前に彼女は続きを口にした。 「兄は私のことを全く覚えていませんでした」 「そんな……」 「脳に損傷はありませんでした。事故の影響である可能性もあります。けれど、それだけが原因とは……」  彼女はふっと息を吐いた。彼女の表情にはまるで変化がなかったけれど、何故だか自嘲気味な笑みを浮かべているような気がした。 「兄は、私のことを覚えていないどころか、私のことを認識できないのです。私のことだけが……」  僕はかける言葉を見つけられず、ただ呆然と彼女の横顔を見つめることしかできなかった。彼女は窓の外に広がる景色を見ながら続けた。 「兄にとって私は、存在しない人間なんです。両親は、そんな兄が混乱しないよう彼の前では私の存在を黙殺するようになりました」 「そんな……」 「仕方がないのです。元はと言えば、私が彼の手を振り解いたことが原因なのですから。両親だって本当は辛いはずです。でも、今の兄の心を守るためにはそうするほかないんです。私が空気である事が、最善の方法なのです」  そう言って彼女はまた、人形のような無機質さを感じさせる微笑を見せた。
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