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僕は、目の前にいるこの少女のことを何も知らないのだと思い知った。彼女について知っていることといえば、名前と、人殺しだという噂だけ。だから僕は、彼女に尋ねなければならなかった。
「君は、それでいいのかい?」
彼女は問いの意味を理解することができなかったのだろう。無表情のまま首を傾げた。
「だって、君がそんな風に誰とも関わりを持たず、自分の存在を消してしまうようになったのは、お兄さんの事が原因って事だろ? でも、僕にはなんで君が君自身を押し殺して生きていかなきゃいけないのか理解出来ないよ」
僕の言葉を噛み砕くように、彼女は目を閉じて俯き、しばしの間考え込んでいた。それから再び目を開けると、まっすぐ僕の瞳を見据えながら言った。
「あなたに分かるはずありません」
「……確かにそうだね」
僕は素直に認めた。
「だけど、僕にだって分かることがある」
「……?」
「君は、優しい子だ」
彼女は一瞬目を見開いた後、すぐに元の無表情に戻った。
「……どうしてそう思うのですか?」
「だって、君は誰かのために自分を消し去ろうとしているじゃないか」
「……」
「でも、僕はそんなの間違っていると思う。君が君の人生を生きられないのは違うと思う。もっと自分のために生きるべきだ」
「……無理ですよ」
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