仮面少女が笑うとき

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 彼女は諦めたように、しかしはっきりと拒絶の意思を示した。 「私たち家族には……私には、私自身が存在を消すことがもはや当たり前になっているのです。それを変えることなど考えられません。兄が平穏に暮らす、それはつまり両親も平穏に過ごすことができるということなのです。それは悪いことではないはずです。私が自身の存在を消すことでその平穏が保たれるのであれば、私はそれで良いと思っています。それが私の人生です」  彼女の決意は固い。それを僕はひしひしと感じていた。 「……そう。……君がそれでいいのなら、僕はこれ以上何も言わない。でも、これだけは言わせてくれないか?」  僕は彼女の両手をそっと包み込むようにして握った。彼女は少し驚いたようにびくりと肩を震わせたけれど、僕の手を振り解くことはなかった。 「もし、もしもだよ。いつか、お兄さんの中に君という存在が戻ってきたなら、その時はもう空気でいることをやめてくれないか?」  彼女はじっと僕の目を見つめた後、小さく小首を傾げた。 「何故?」 「何故って……」  僕は戸惑ってしまった。何故と言われても困ってしまう。理由なんて特にない。ただ、彼女に自分を押し殺してほしくなかった。もっと伸び伸びと生きて笑って欲しかった。
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