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「僕は君の笑顔が見たいんだ」
結局、出てきた言葉はそれだけだった。彼女は相変わらず仮面のような無表情を僕に向けていた。その反応を見て、僕は自分で何を言っているんだろうと思った。冷静になると僕の言葉はまるで愛の告白みたいな台詞だった。そのことに気がついた僕は慌てて彼女の手を離す。
「ごめん、変なこと言っちゃったね。気にしないでくれ」
「……いえ」
彼女はゆっくりと立ち上がると、僕の目を真っ直ぐに見据えた。そして静かに口を開いた。
「あの……あなたは不思議な人ですね。私はこんな風ですし、私に近づいてくる人なんてこれまでいませんでした。皆、遠巻きに見て好き勝手に噂話をするばかりで……まさか話しかけられ、それどころか理解してくれようとする人がいるとは思いませんでした。あなたは、私のことを怖くはないのですか?」
彼女の質問に僕は即答した。
「全然!」
彼女の顔が一瞬だけ微笑んだように見えた。けれど、すぐに元の顔に戻ってしまった。彼女は僕の返事に満足してくれたのだろうか? よく分からなかった。
「あの……ありがとうございます」
「何が?」
「あなたは大切なことを教えてくれました」
「僕が?」
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