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遅れたパーティー
矢田と和奏は向かい合わずに、並んでソファーに座る様になった。
和奏は矢田の分の洗濯をする様になり、夕食が終われば矢田は、二人分の食器を洗う。
「…和奏、コーヒー?紅茶?」
「あ、紅茶がいいな」
食事と風呂を済ませると、いつもの読書の時間。
二人で並んで寄り添って本を読む。
和奏は花の勉強を。
矢田はその日の気分で本を選ぶ。
けれど、矢田の読書はその意味を変えた。
隣の和奏の体温を感じながら、その世界は半分で。
和奏がページをめくる指や、時々顔を近づけて凝視する横顔を見ている。
活字が無いと生きていけないレベルだった矢田が、和奏と時間を共にする道具として、本を膝に乗せていた。
こんなに、愛おしいと思う気持ちが自分の中にあった事を驚きながら。
初めて過ごす癒しの時間を感受する。
「膝掛け…正解でしたね」
「ん?」
二人で選んだ大判の膝掛けは、柔らかなペパーミント。
「…あったかい」
「ふふ、炬燵は要らないね?」
「そうですね」
和奏は過去を語らず、矢田も訊ねず。
ただ、手を握るだけの保育園児のような恋だ。
外では何も変わらない。
和奏は叶多として店に出勤し。
矢田も津城に報告した以外、誰にも和奏の存在を明かさずに過ごしている。
二人で過ごす時間だけ、和奏が和奏として笑う事が矢田の心を満たしてくれた。
「明日は遅くなるでしょう?…明後日、二人で食事に行きましょうか」
「嬉しいっ、でもここで作るね…その方がゆっくり出来るし」
明日はクリスマス。
花屋は忙しい。
矢田は通常通りだが、帰ったらゆっくり寝かせてやりたい。
休みを合わせた、二人で過ごせるのなら結局日付けはどうでもいいのだ。
「ケーキも安くなってるし、一石二鳥だね」
「色気の無い事いいますね…ああ、でもチキンもお手ごろでしょう」
クスクスと笑う和奏の髪を撫ぜて、明後日和奏に遅れたプレゼントを用意しようと考える。
きっと何でも喜んでくれるだろう、けれど出来るだけ彼女に似合う物を明日リサーチしなければ。
矢田は浮かれていた。
和奏との時間があまりに穏やかで、自分の仕事も…周りへの警戒も、気にしている様で少し…忘れてしまいそうだった。
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