遅れたパーティー

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クリスマス、もちろん津城は出勤しなかった。 組にも所帯持ちはいて、若い年齢層の人間は何処か浮かれた顔でそうそうに帰宅する。 矢田も自分のデスクで、和奏に何を送ろうかと思案していた。 和奏は21時を過ぎると言っていたので、まだ時間はある。 店の近くで車を停めて待とうかと考えていた。 19時を過ぎた頃、電話が鳴った。 基本、下の階の人間が取ってその後内容によってはこちらに回ってくるのだが。 内線が鳴った。 「はい」 『矢田さん、ユリさんです』 「…わかりました」 まずい、これまでクリスマスは毎年津城と食事をしていたのだ。 もちろん津城が誘う訳では無いが、親のコネも利用してその予定を押さえていた。 今年は会食も早々に済ませ、もう年始まで津城の予定入れないように言われている。 香乃との時間を確保する為、あの出不精のボスが珍しく真面目に働いたのだ。 その涙ぐましい努力を無にしてはいけない。 ついでに、代わりとして自分も捕まりたくない。 数秒で矢田は頭を巡らせた。 「お待たせしました、矢田です」 『矢田くんこの間はどうも』 はんなりとまとわりつく声だ。 矢田はあまり好きではなかった。 津城があのまま香乃を選ばずにいたなら、ユリは彼の伴侶に一番近い場所にいた女性だった。 他にも数人候補は居たが、ユリは特に積極的にその地位を欲しがっていた。 三十代を少し過ぎた若さで、組の管轄のクラブを経営しているやり手だ。 その美貌で組関係の会合のコンパニオンは、彼女を筆頭にほんとんどがその店から派遣されている。 「こちらこそ、ありがとうございました」 『津城さん、いらっしゃいますか?』 津城の連絡先を知らない訳では無いだろうに、つまりは津城が彼女からの連絡に応答していないと言う事だ。 「いえ、今日はこちらには居ませんが」 『…ねぇ、矢田くん』 ユリの声色に、無理矢理乗せた甘さが混じり。 『…津城さん、いいヒトが出来たのかしら?』 いつもは自分が押さえていた日取りを、今年は誰かが独占している。 そう思うのは当然だ。 「…どうでしょうか、津城は僕に何も話しませんが」 否定も肯定もせずに、シラを切る。 『最近、全然お店にも来てくれないのよ?…元々通ってくれる人ではなかったけど』 「年末ですし、少し用事が立て込んでまして…伝えておきます」 『…明日はそちらにいらっしゃるかしら?』 「…どうでしょうか、津城はいつも予定を立てないもので」 今まで、勇気のある女性が何人かここを訪れた時も対応は矢田の仕事だ、のらりくらりとかわしているとユリが小さくため息をついた。 『…それじゃあまた』 「ええ、お役に立てずすみません」 受話器を置いて息を着く。 津城に報告が必要だ。
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