兵器として作ったスライムに懐かれたみたいなんだが

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 ――今日もまた、彼はスライムの研究をする。  スライムはガラスの筒の中にいたが、いつもと様子が違っていた。  人のような姿を取っていたのである。  彼は、スライムを注視した。スライムは、体の一部を手のように、ガラスに張り付けた。  続いて、人の頭のような形に変え、そこに、口のような穴を開けた。その穴をパクパクさせるように動かす。 「……言いたいことがあるのか?」  彼は端末を手に取り、搭載されているカメラをスライムに向けた。画面に字が出てくる。 「コトバ、オシエテ」  発声器官がないため、声は出てこない。でも、確かに喋った。 「……言葉を教えろと?」  彼は呟いた。スライムがコクりと首肯するように動く。 「言葉を教えろ」ということは、人間と意思の疎通をしたい、ということだろうか。 「これって……」  自我が芽生えた、といっていいのだろうか。  このとき、暴走したジェイシリーズのプロトタイプ――脳操虫が人格を書き換えるも、それが再構築した人格によって暴走を引き起こした――のことを、彼は思い出した。 「どうすればいいんだ……」  彼は頭を抱えた。 「――スライムは、研究所産まれの生物だ。地上のものをベースにしたジェイとは異なるだろう。人間社会の繋がりというものが、端からない。故に『情』由来の暴走を引き起こす可能性は低い、と考えられる。情がないというのも、それはそれでつまらないが」 「他人事ですか?」  彼は、スライムに自我が芽生えたことを、ギョームに相談した。  相談相手が不適切のような気がするが、気兼ねなく話せる相手がギョームしか思いつかなかったから、仕方がない。 「こうなったら、教育するしかないだろう。子供が、親の期待通りに育つかどうかはわからんがね」 「教育って……」  やはりギョームは、どこか他人事だ。口からため息が出てきた。  ――教育するしかないと言われたからではないが、現状、それしか方法が思いつかない。  けれども、彼は軍人ではない。どうやって兵器として教育せよと言うのだ。  幸い、研究所のコンピュータには、生体兵器に軍事教育を施す為のマニュアルがある。  彼はそれをダウンロードし、内容をスライムに叩き込んだ。  同時に、絵本のような、簡単な書物を読ませる。  そのような本を読ませるのは、文字を学ばせた方が、軍事教育の理解が深まると考えたからである。  教育の成果か、スライムは目に見えて賢くなってきた。 「オハヨウ」  スライムに会話用の端末を与えたところ、ものの数分で使いこなしてみせた。 「おはよう」  彼は、スライムに挨拶を返した。 「キョウハ、ナニヤルノ?」 「戦闘シュミレーションだ。教育の成果を試すんだ」  彼は端末を操作する。すると、ガラスの筒に色が付き、中にいるスライムが見えなくなった。  ガラスの筒の内部が、バーチャル空間に変化したのである。 「お手並み拝見といこうか」  彼は端末を操作する。これが、スライムにとって、初の戦闘シュミレーションとなる。  まずは、簡単なものから始めることにする。  彼は端末を操作し、訓練用プログラムを実行した。  今、スライムのいるところは、正しくバーチャルといったような、周りに何も無い空間である。  そこに、人型のロボットが現れた。 「ロボットか……」  スライムは、ぶよぶよしたゲルのような体をしている。そのぶよぶよした体でもって、対象を包み込んで、窒息死させる。  この攻撃法は生物には効果がある。だが、ロボットの様な非生物兵器だったらどうだろうか。  ロボットが、スライム目掛けて走ってきた。  対してスライムは、体を垂直上に、棒のように伸ばす。次の瞬間、棒は刃に変化した。  ロボットが一撃を加えるというまさにその時、スライムは刃を振り下ろす。  ロボットは動きを止めたかと思うと、頭から股まで真っ二つにされていた。  彼は、スライムの戦いを端末越しに見ていた。  簡単なものとはいえ、数分も経たず、難なく撃破してしまった。  スライムは、敵が生物でも非生物でも、対処できるということだ。兵器としては及第点だろう。  しかし、彼は素直に喜ぶことができなかった。
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