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――彼は、バーチャルリアリティを解除した。春爛漫の風景から一変、元の殺風景な研究室に戻る。
続けざまに、端末の操作をする。今度は、ガラスの筒が開いた。スライムが、中からでろんと出てくる。
「ルミエール、私を取り込んでくれ」
彼は両手を広げた。まるで、その身を差し出すように。
スライムは「食べるのと取り込むのは違う」と言っていた。もし、そうであるならスライムの方で何らかの痕跡が残るということだろう。
彼は、今後もスライムと一緒に居続ける方法が、これしか思いつかなかったのである。
「イイノ?」
スライムは端末を操作した。
「いいとも」
彼は即答した。
スライムは体を持ち上げる。まるで、彼の顔をを見るかのように。彼は両手を広げていた。
「トリコンダラ、オハナシデキナイ」
スライムは、再度、端末を操作する。
「……嫌だと言うのだな。そうか。でも、私たちは、もう一緒にいられないんだ。頼む、取り込んでくれ。そうすれば、私たちはずっと一緒だ」
彼は訴えた。声から悲痛さが感じられる。
スライムは、再度体を持ち上げる。持ち上げた体を、彼の顔に近づけた。
彼は、目を見開いていた。瞬きをひとつもせず、スライムのことを見続けていた。
「ワカッタ。デモ、ソノマエニ」
スライムはメッセージを返す。その後、こんなメッセージを送った。
「コドモガホシイ」
スライムは、彼にのしかかろうとする。
「何をするんだ!」
彼は抵抗したが、ぶよぶよの体を押し返すことはできない。あっという間に組み伏せられてしまった。
彼は、「子供の作り方」を教えた記憶はなかった。それよりも――
「ルミエール!それは野蛮なことだ!君にそんなことをさせたくない!!」
「コドモ、ホシクナイノ?」
彼は、説得を試みたが、スライムは聞き入れなかった。
――親の体を使って産まれてくる、なんて、野蛮なんだ――
だからこそ、そうやって産まれてくる地上のものに、深い嫌悪感を抱いたのではないか。なぜ、同じことをさせてしまうのか――
しかし、今の彼は、深い多幸感に包まれていた。同時に嫌悪感と罪責感をも覚えていた。
次第に、彼の意識は遠のいていった――
――数時間後。
警備ロボが研究室に殺到する。それに伴い、研究室は「立ち入り禁止」となった。
研究室には、見覚えのない青年がいた。
青年は、彼と似たような背格好をしている。身にまとっているものは、先程まで彼が着ていたものだ。
「何をするつもりだ!」
青年は叫んだ。同時に、右手を刃に変える。
警備ロボも、武器を構える。その場は、一気に緊張感に包まれた。
「何事かね」
ギョームは研究室の前を通りかかった。警備ロボの隙間を縫うように、様子を伺うように覗き込む。
「危険です。この場を離れてください」
警備ロボが警告を発する。
「私は、ここにいるスライムに用があるんだが」
「そのスライムが危険なのです」
ギョームは、警備ロボに追い返されてしまった。
「――まったく、警備ロボというやつは、融通が聞かなくて困る。願わくば、スライムを殺処分せんことを。
「彼は、何をしたかは知らない。言えることは、命を賭したということか。そうであるなら、スペアを使って、再配属される可能性が高いかもしれないな。ただし、二度とスライム開発に関われない可能性が高いが。
「『この世で結ばれることが叶わぬなら、命を絶つ』という選択肢を取らせぬ、か。うむ、実に惨たらしい罰だ。我々はもう、ロミオとジュリエットになれないのだ」
追い返されたギョームはひとり、こんな事をぼやいていた。
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