1. 尚人

11/104
前へ
/292ページ
次へ
 学生は如何に楽に単位を取りたいかを考えている。加えて、どんなに質の高い講義をしても、すぐに自分自身の待遇に直結するということは考えにくい。  これらの理由から、長山教授の講義は、空欄が含まれているプリントが配布され、この回答を教える形式の講義になっており、テストは各講義で配布されたプリントからそのまま出るとのことだった。徹底した省エネぶりだった。  その一方、大学からの評価もしっかり考えられていた。  講義前ではなく講義後に出席カードを配布し、偽装出席を徹底的に防いでいるため、圧倒的な出席率を誇っていた。また、時間ギリギリに教室に入ると、最前列しか空いていないため、講義開始の十分前には八割ほどの学生が教室に入っていた。もしもこの状況を大学の上層部がたまたま見たとしたら、「こんなにも学生が能動的な講義があるのか、なんて素晴らしい」と評価されるのだろうか。まさかここまでは意図していないだろうが、一回の講義で噂の信憑性が大きくなり、長山教授のやり方がすべて自身の利益になっていることにむず痒さを感じた。
/292ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加