1. 尚人

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 椎名と瀬戸は可愛かった先輩談義で盛り上がっていた。僕は飲み会のときと同じように、乾いた愛想笑いで話についていき、飲み会を楽しめなかったことをひた隠しにした。 「ピンチョス入るっしょ?」 「当たり前でしょ、あんなかわいい先輩いるのに入らない理由ないわ!」  今、二人は間違いなく先輩の胸を思い浮かべていただろう。 「俺も入る、楽しかったもん!」  二人に尋ねられてもいなかったが、僕は取り残されぬよう、こう答えた。  昨日の新歓は、ピンチョスの雰囲気に圧倒され、劣等感も感じ、正直楽しめなかった。  ただ、同級生で椎名と瀬戸しか友人がいなく、サークルに入らないことは、キャンパスライフのふりだしに戻ることを意味していた。今から新しいコミュニティに単身飛び込む勇気は、僕にはなかった。  華々しく、輝いたキャンパスライフから足を踏み外さぬよう、僕はピンチョスへ入ることにした。 * * * * 「今までありがとね、尚人がいなかったら私の高校生活はこんなに楽しくなかったと思う。出会えてほんとに良かった。大学でも尚人らしく頑張ってね。いつまでも応援してる」
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