1. 尚人

19/104
前へ
/292ページ
次へ
 普通の人が異質という環境は、僕にとって非常に心地が良かった。  人前でふざけたり、体を張ったりすることは苦手だったが、他のハンドボール部の奴と同じくらいチヤホヤされたいし、モテたいと思っていた。  ハンドボール部という環境は、そんな平凡な僕が過剰評価される環境だった。 『ちょっと、もうやめろよ』 『馬鹿じゃないの』 『ごめんねー、こいつら頭おかしいのよ』  こういう類の言葉しか発していないのに、僕の評判はお調子者たちと同じくらい上々だった。  葵と初めて話したきっかけも、太一がクラスの皆の前で一発ギャグをしてスベった時に、 「あいつあんな感じだけど、部活は一生懸命なんだよ」  と話しかけたことだった。  ハンドボール部の面々が、次々とネタを振りまいてくれるので、今の状況をそのまま話すだけで、僕は落ち着いていてセンスのある奴になっていた。これがきっかけで僕は葵と仲良くなり、そのまま付き合い、卒業まで付き合い続けたので、高校時代のほとんどを「彼女あり」で過ごした。この肩書が僕により箔をつけた。 「尚人くんは葵と付き合ってるもんねー」 「葵とお似合いだよねー」
/292ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加