1. 尚人

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 早く歩いたとしても、たどり着きたい目的地があるわけではない。小道にそれてみたり、歩幅を縮めてみたり、小さく現状のもどかしさに対して、少しの抵抗は見せるものの、結果ブーメランのように返ってきて、虚無感の糧となった。ふと、周斗からの助言を思い出した。  真緒が太って、可愛くなくなれば、別れられるのではないか。  周斗のこの発想は、狂気じみていて、二つ返事で行動に移せるものではなかった。ただ、「趣味がない」、「暇そう」、「つまらない」という指摘は、いまだに頭にこびりついていた。   没頭して、真緒ではない別のことを考えられる点でいうと、料理は一理あるような気がした。  初めて大喧嘩をしてから、真緒とは会っていないどころか、メッセージのやりとりも殆どなかった。進展はないはずなのに、有り余る時間のせいで、僕の脳内では、勝手に話が進んで、最悪のシナリオが完成しそうになっていた。  料理でも何でもいい、没頭できる何かにすがりつきたかった。  いつもなら最寄り駅にある牛丼屋で夕飯を済ませるところだが、スーパーに立ち寄ってみた。  まだ六時半。  すぐに料理が完成してしまうと、また時間が出来てしまう。
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