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生吹の部屋へと入り、まずは、真帆の話を聞きたい、と生吹が言うと、従姉だよ、と慈はあっさりと答えた。
「うちの大学の院に通ってて……オレの相談にずっとのっててくれたんだ」
「相談?」
ベッドの端に慈を座らせ、自分もその隣に座った生吹が首を傾げる。すると慈は少し視線を揺らめかせ、それから、だって、と言葉を返した。
「……もっと、可愛くなりたかったから……」
「慈は可愛いよ?」
「でも……生吹、こんなにカッコよくて、その恋人ってなると、めちゃめちゃ可愛い人ってなるだろ? 誰も、文句言えないくらい……慈なら仕方ないねって言われるくらい、可愛くなりたくて、真帆ちゃんにアドバイス貰ってたんだ」
真帆ちゃんにはこれ以上可愛くなったら性別変えなきゃいけなくなるって冗談言われたけど、と慈が笑う。それを聞いて、多分冗談ではなくて真面目に言ったんだろうと思った生吹は、慈の体をそっと抱き寄せた。
「おれだって、慈が思うほどカッコ良くない。このところ、慈とすれ違って、正直色々上手くいかなくて、すごくカッコ悪くて……今日だって、いつもなら笑顔で躱すのに、結局飲まされて、潰されて、あんな……慈を傷つけるようなことになって……ごめん。彼女とは、ホントに何もないんだ」
「……ホント?」
生吹の腕の中に大人しく収まっている慈が聞く。生吹はそれに頷いた。
「少し、彼女が慈に似てて……それで気を許しちゃったっていうか……でも、やっぱり、慈じゃなきゃダメだ。慈がいい。慈だけが好き」
更に慈の体を抱きしめると、慈の手が生吹の背中に廻る。
「オレも、生吹がいい。生吹だけが好き。離れるなんて言って、ごめんね」
「おれも、意地悪してごめん」
生吹はそっと慈の体を離し、その顔を見つめた。少し泣きそうなその表情に微笑む。
「慈は、おれにとって、最高の恋人だよ」
「うん、オレも……生吹は最高の彼氏だよ」
慈の表情が明るくなって、照れたように笑む。生吹はその笑顔に近づいて、そっとキスをした。そのまま慈の体をベッドへと押し倒す。
「……慈がまだ怖いなら、しない」
こちらを見上げる慈をまっすぐに見下ろして生吹が慈の答えを待つ。慈は少しだけ瞳を揺らめかせてから、小さく頷いた。
「平気……生吹なら大丈夫」
慈が微笑んで生吹に腕を伸ばした、その時だった。部屋のチャイムが鳴り、外から『生吹ー』と自分を呼ぶ声が聞こえる。
「……相崎?」
慈がその声を聞いて呟く。生吹は大きくため息を吐いてから、ベッドを降りた。そのまま玄関へと向かって、ドアを開く。
「生吹ー、聞いてくれよぉ、この間飲み会でいい感じになった子と会ったんだけどさあ、彼女、『彼氏居るからごめんね』とか言いやがってー」
ドアを開けた途端、管を巻く相崎に、生吹は慌てて振り返る。慈はベッドに座り込んで、その様子を見ていたようだが、生吹と目が合うと、微笑んで頷いた。
それを見て生吹が大きくため息を吐く。
「とりあえず入れよ、相崎。慈も話聞くって」
「慈? なんだよ、二人で吞んでたのか?」
「まあ、そんなとこ」
部屋に入り小さなテーブルの前に座り込んだ相崎に、何か飲むもの持って来るよ、と声を掛けてから生吹がキッチンへと向かう。慈がその隣に寄る。
「ごめん、慈」
「ううん……やっぱり生吹との初めては、もっと特別がいいなって思ってたから」
「特別? 夜景のキレイな高級ホテルとか?」
冷蔵庫から缶ビールを取り出しながら生吹が微笑む。
「いいね! 高級旅館の貸し切り露天風呂とかも最高」
慈は缶ビールを受け取りながらそう返す。
「どっちにしろ、バイト頑張らなきゃな」
「オレも頑張るよ」
「じゃあ、今日はここまでな」
生吹が慈に小さくキスをする。慈はそれを素直に受け入れてから、好き、と微笑む。その顔が今まで見た中で一番可愛くて、生吹は、おれも、ともう一度慈にキスを落とした。
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