2

1/2
330人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ

2

 それから数日後のことだった。学食で慈と向かい合って昼食を摂っていると、友人たちが見え、こちらに手を振った。慈がそれに、おっつー、と手を振り返す。 「あれ? 生吹、慈とメシ? 彼女とじゃないの?」  近づいてきた友人に言われ、生吹が首を傾げる。 「彼女? いないけど」 「え? この間、それ理由に飲み会断ったって、聞いたけど」 「あー……面倒だったから返信しなかったから、かなあ?」 「とか言って、ホントは居るんだろ? おれたちに会わせたくないだけで」  生吹だし居ないわけないだろ、と言われて生吹は、いないよ、と返す。けれど、そうすると益々怪しい、なんて言われてしまい、生吹はこの不毛なやり取りに、もう好きにしていいよ、と終止符を打つ。 「お、じゃあどんな子か突き止めてやる。ま、邪魔はしないから」  遠くから見るだけ、と笑う友人たちに、生吹はため息を吐いて、そうしてよ、と答えた。  そのまま友人たちが去っていく。その姿を見送ってから生吹はため息を吐いた。 「ひとの彼女とか、見て楽しいんだろうか」 「生吹の、だからじゃない? これまでずっと生吹、モテるのに誰とも付き合ってなかったから」  ずっと黙って友人との会話を聞くに徹していた慈がそう答える。その表情は少し沈んでいた。 「だって……ずっと、慈が好きだったから……」  少し身を乗り出して小さく告げると、慈の顔が赤くなる。でもまだ不安そうな表情のままだった。 「でも……それがオレだって、バレたら……」 「おれは構わないけど」 「オ、オレは構う!」  慈が真剣な目でこちらを見つめる。  構う、とはどういうことだろう? 自分との関係が周りにバレるのが嫌だということだろうか。生吹は慈と恋人であることを幸せに思っているし、世界に発信してもいいと思っている。けれど、慈は後ろめたく思っているのだろうか。最近、慈は自分との接触を避けるし、もしかしたら自分を好きだという気持ちは、やっぱり友達としての好きだったと気付いたのだろうか――それは、少し……いやかなり辛い。 「……そう、か……じゃあ、少し距離、置く?」 「え?」 「だから、あいつらの興味は他に移るまで、友達の距離に戻るかって聞いてる」 「……友達の、距離……」  生吹の言葉を反芻するように慈が呟く。それから小さく頷いた。 「そう、する」  その頷きが、ひどく寂しかった。  嫌だ、生吹の傍に居たい、なんて言って貰えるのではと期待した自分が少し恥ずかしい。 「分かった。じゃあ、今日はこれで。また明日ね、慈」  生吹は立ち上がると、精一杯の笑顔で慈に告げた。こちらを見上げるその顔はとても驚いている。 「あ、した?」 「うん。おれ、今日はバイトだから帰り別だし、次に会うの明日になるよね」 「そ、か……うん。また明日ね、生吹」  少し寂しそうな笑顔を向ける慈に、生吹は作ったままの笑顔で、じゃあね、と返して、その場を離れた。 「……そんな顔するなら、頷かなきゃいいのに……」  自分も意地悪だったかもしれないが、慈には、嫌だと言って欲しかった。ただ、それだけだったのに、上手くいかない。それがとてももどかしかった。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!