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 その日から慈とは友達の距離を保っていた。一緒に昼食を摂ったり帰ったりはするけれど、互いの家に行くことはなくなり、二人で過ごすより、他の友達と一緒に過ごすことが増えた。  確かに毎日会っている。けれどそこに甘い空気は一切なくて、付き合う前よりも慈が遠く感じていた。  そんなある日だった。講義の教室を移動していると、隣で友人が、あれ? と首を傾げた。生吹がそれに、どした? と聞き返す。 「あそこ、慈じゃない?」  友人がガラスの向こうを指さす。そこはカフェになっていて、学生も、一般の人も使えるところだ。友人の指の先を見ると、確かに椅子に腰掛けている慈の姿が見えた。けれど、テーブルを挟んだ向こうにいる人物と何か話をしているようで、こちらには気づかない。 「向かい、女の子だな。見かけない顔……もしかして、慈にも彼女?」 「かの、じょ?」  確かに親密そうに顔を寄せ、時々笑いあう姿は恋人同士と言われても頷ける。けれど生吹は自分が慈の恋人だと思っているので、その予想には頷けなかった。 「生吹にも彼女出来たし、慈も欲しくなったんじゃない? あいつ、可愛い顔してるけどなんだかんだ女子と仲いいし、ああいう弟系が好きっていう子もいるだろうしな」  そういう意味ではモテるんだよな、と友人が大きく息を吐く。確かに慈の向かいの女の子は可愛いというよりはキレイな子だった。もしかしたら歳も少し上なのかもしれない。 「……ホントに彼女だと思うか?」 「うーん、見た感じでは。慈、これまで一対一で女の子と会ってることなかったし」 「だ、よな……」  女の子と仲がいい、と言っても慈の場合は異性としてというよりは同性の友達のような感覚で仲がいいことが多い。可愛いものや美味しいものが好きな慈が一緒だと話が盛り上がるのだろう。  けれど今見えている慈はそれとは雰囲気が違う。 「ところで、生吹、週末の飲み会、来る?」  慈に視線を向けたままだった生吹に、隣の友人が聞く。生吹は友人に怪訝な表情を向けた。 「だから、おれはもう飲み会行かないって」 「そういうのじゃなくて、ゼミの方。顔合わせついでにやるって言ってたの、覚えてない?」  確かに先週研究室が決まり、その顔合わせをすると言っていた。飲み会だとまでは聞いていなかったが、そういう集まりなら行っておくべきだろう。それに、慈がもし自分との関係を終わらせて、彼女との恋を始めたいというなら、止められない。慈を自分のものにしたい。けれど、それ以上に慈には幸せになって欲しいと思うのだ。いつも笑っていて欲しい。  もし自分と居るよりも彼女といるほうが、笑顔の多い毎日になるのなら、生吹は慈を解放したいと思う。辛いけれど、そのくらい慈が好きなのだ。 「それなら、行くかな」  生吹の答えに、楽しみだな、と友人が笑う。けれど生吹は同じように笑うことは出来なかった。
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