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 飲み会に生吹と参加して、ご機嫌で居られるはずがない。そもそも慈が飲み会に参加するのは、生吹が誘われているからで、決して自分の出会いの為ではない。だから生吹が女の子と話しているのも、隣でさりげなくボディータッチされているのも、本当は嫌だ。それが顔に出てしまうから激おこなんて言われるのだろう。実際、機嫌が悪いのだから仕方ない。  今日だって、店に着いて早々に生吹と離され、長いテーブルの端と端に座らされてしまった上、向かいに側に並んでいた女の子たちはいつの間にか生吹を囲んでいるのだから、イライラも募るという話だ。  今回だけではなく、生吹はこういう飲み会によく誘われる。友人たちは生吹を『撒き餌』と呼び、飲み代を負担する。生吹は『タダ飯が食える』とそれに参加する。生吹と友人たちは『ウィンウィンの関係』なんて言うが、慈にとっては胃痛の種だ。だからこそ以前はこんなふうに付いていくことはしなかった。  けれど去年、そんなふうに呼ばれた飲み会で知り合ったらしい女の子が大学まで乗り込んで来て、『付き合ってくれなきゃ死ぬ』と騒ぐ事件があった。以来、慈は一緒に行くようにして、本気で生吹を狙う子には『オレより可愛くないと生吹はあげないよ』と冗談で言うようになったのが、今は定番になっていた。きっと『ペット枠』とか言うのは、そんな慈の行動から来ているのだろう。それでも、モテる生吹を間近で見ているのは気が重い。  だったらこんなところに来なけりゃいいと思うのだが、やっぱり自分の知らないところで好きな人に彼女が出来てしまうのは嫌なのだ。  いくら、恋人という関係まで欲張るつもりはないとはいえ、慈を生吹の親友として変わらずに傍に居させてくれる人と付き合って欲しいとは思う。そのために慈も相手を吟味したい。 「慈くん、だったよね? 大丈夫? 具合よくない?」  女の子に囲まれている生吹をぼんやり見ながらビールを傾けていた慈に、そんな声が掛かり、慈は顔を上げた。  目の前にはロングヘアの毛先を巻いた、可愛らしい女の子がいつの間にか座っている。 「ううん、大丈夫。ちょっとぼんやりしてただけ」  慈が微笑むと、彼女も微笑んだ。少し幼い顔立ちにえくぼが出来て、可愛らしい。 「よかった。もしかして、慈くんも人数合わせに呼ばれたの?」 「うーん、人数合わせっていうか……ペット枠?」  慈が答えると、目の前の彼女は可愛らしく笑った。 「ペット? 何それ。確かに慈くん可愛らしい顔してるけど。私にはちゃんと男の子に見えるよ」 「……ありがと。そんなこと言われたの、初めてかも」  いつも慈くんは弟みたいで可愛い、と言われていた。別にそう言われるのは嫌いじゃない。慈にとって『可愛い』は誉め言葉だ。生吹にそう思われたら一番嬉しいと思っている。 「そうなんだ。慈くんオシャレだし、私は仲良くなりたいと思ってるよ」 「え? ホント?」 「うん、ホント。今日のそのブルーのシャツも似合ってる」  そう言われて慈は改めて自分が着ているシャツを見た。これは二十歳の誕生日に生吹がプレゼントしてくれたものだ。ハイブランドのもので高くて手が出ないと話したら、二十歳は記念だから、と生吹がくれて、とても嬉しかったことを今でも覚えている。 「だったら、嬉しいな」 「ホントだよ……仲良くなりたいのも」  そう言って少し頬を赤らめる女の子に、慈は、ありがと、と微笑んでから席を立った。 「ちょっと飲み過ぎたみたいだからお手洗い行ってくるね」  その言葉を残し席を離れた慈は、歩きながらため息を吐いた。  友達としての女の子との付き合いは好きだが、こういう場で出会う、恋愛を見据えた付き合いは苦手だった。そもそも慈は生吹以外の人と付き合う気はない。だからこうしてアピールされると、どうしても一番に罪悪感がきてしまうのだ。
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