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 戻ったら彼女とどんな話をしたらいいだろう、当たり障りのない、今見ているドラマとかがいいだろうか――そんなことを考えながら席に戻ると、さっきまで居た彼女の姿が消えていた。おまけに生吹の姿も見えない。  慈は嫌な予感がして、女の子と話していた相崎に声を掛けた。 「相崎、生吹は?」  そう聞くと、こちらを振り仰いだ相崎が辺りを見回してから、いねえな、と呟く。 「女の子も減ってる……慈、親友なら察してやれよ」  相崎はにやにやと笑いながら、生吹モテるからな、と一人で納得したように頷いた。それに、分かった、と頷いて慈は席に戻る。すると、ポケットに入れていたスマホがメッセージの着信を告げた。 『これ以上飲むなよ。おれ、先に抜けたから、お前もタイミング見て抜けて来い』  そんなメッセージの差出人は生吹だった。自分はもう女の子を連れて抜けたから、慈も同じようにしろということなのだろうか。 「……ひとの気も知らないで……」  生吹は慈の気持ちを知らないのだから当然なのだけれど、やっぱりこんなふうに言われたら腹が立つし、悔しい。自分が女だったらこんなに苦労しないし、生吹を確実に恋人にしている自信もあったから、やっぱり切ない。  今頃生吹はあの小柄な女の子の体を抱いているのかもしれないと思うと、なんだかもう全てのやる気をなくして、慈は大きなため息と共に目の前のテーブルに突っ伏した。 「あれ? 具合悪い?」  今日はこんな言葉ばかりかけられるな、と思いながら慈が顔を上げると、隣の椅子に男が座った。確か相崎の高校の時の友人、木下だ。同じ二十歳だと自己紹介していたが、黒髪に頭の良さそうな眼鏡を掛けているせいか、今日の服装がジャケットに革靴のせいか、自分よりも大人に見える。 「いや、大丈夫」 「あ、もしかして狙ってた女の子、友達に取られてへこんでる?」  本当は狙ってた男を女の子に取られてへこんでるのだが、そんなことを言うつもりもないので、そんなとこ、と慈が小さく笑む。 「あっちは映画の話で盛り上がってて、僕その映画観てないから入れなくて……良かったら、話しない?」  そう言う木下の向こうでは女の子三人と相崎が楽しそうに話している姿が窺える。ハーレム状態で最高に機嫌がよさそうな相崎の顔を見て、慈は思わず笑ってしまう。 「えっと……慈くん、だったよね」  木下の声に慈は相崎から視線を逸らし、頷く。すると木下が、可愛い、と呟いた。その言葉に慈が首を傾げる。 「いや、ごめん……でも慈くん、よく可愛いって言われない?」 「うん……でも嫌じゃないから謝らなくていいよ」 「嫌じゃないんだ」 「全然。むしろ武器」  そう言って笑うと、木下も笑った。それから、いいね、と口を開く。 「慈くん気に入った。飲み直そうよ」 「うん、飲む飲む!」  生吹からは、もう飲むなとメッセージが入っていたが、女の子とイチャイチャしているようなヤツのことを聞くつもりはない。むしろ、この重い気分を払拭するには飲むしかないと思う。  慈の言葉に木下は頷いて、慈に手を差し出した。 「場所変えよう。ここだといつ女の子に話しかけられるか分かんないし」  確かに二人で話すならその方がいいだろう。慈はその提案に頷いて、木下の手を取り立ち上がった。
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