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「だからね、なんであんなにモテるのか、ホント分かるけど分かんないんだよ。確かに生吹はカッコいいよ、でもさ、週に一度のイベントみたいに告白されてるとか異常だと思わない?」  木下が選んでくれたダイニングバーのカウンター席で、慈はグラスを片手に隣の木下にそう捲し立てた。 「うん、そう思うよ。羨ましいと思うって僕さっきも言ったし、慈くん飲み過ぎだよ?」  木下が困った様に眉を下げる。その表情を見て、慈はぼんやりする頭で、何か悪いことをしたのかもと考える。 「ごめん、木下くん……何でも聞いてくれるから、話しやすくて……」 「え、いや、いいよ、大丈夫。でも、慈くんって、染島くんのこと、好きなんだね」  かぶりを振った木下が、慈の目をまっすぐに見つめ、微笑む。その優しい表情に、慈は素直に頷いた。きっとアルコールのせいで上手く思考が廻らないせいだろう。いつもなら生吹を好きなことなんて絶対に誰にも漏らさないのに、この時だけは肯定してしまった。 「うん……好き。オレ、生吹が好き」 「……そっか……あ、ほらほら、慈くん、グラス空いたよ。何飲む? ここ、カクテルも美味しいよ」  気分を変えようとしてくれたのか、木下がことさら明るい声で慈にメニュー表を差し出した。慈はそれを受け取り、頷く。 「じゃあ、木下くんのおすすめで」 「……いいよ。慈くんにぴったりのお酒、頼んであげる」  木下はそう言うと慈の頭を優しく撫でてから、カウンターの中にいる店員を呼んだ。そのやり取りをぼんやりと眺めながら、そういえば男が男を好きだと告白したのに全然ひかなかった、と思った。 「木下くん、いい人だね」 「え? 全然、いい人じゃないよ。僕はね、僕のことしか考えてないから」  そう言われ、慈が笑う。 「そういう人の方が信頼できるよ」 「そう? じゃあ、もっと信頼しちゃって」  木下はそう言うと、また慈の髪を撫でて微笑んだ。その仕草も態度もやっぱり自分より大人な気がして慈は髪を撫でる手を甘んじて受け入れた。  どさり、と自分の体が柔らかい何かに落とされた気がして、慈はその瞬間に目を開いた。最後に飲んだ酒がダメだったのか、まだ頭がくらくらする。どうやら少し眠っていたらしい。 「あ、良かった、起きたね」  その声に見上げると、木下がこちらを見下ろしていた。慈は力の入らない体に無理に言う事を聞かせ、上半身を起こす。全く知らない部屋のベッドの上にいるようだった。内装から、おそらくホテルの一室だろうと分かる。 「ごめん、オレ……」 「僕が飲ませ過ぎたんだ。店で眠っちゃったから、近くのホテルで休ませようと思って連れて来たんだ」  言いながら木下がベッドの端に腰掛ける。迷惑をかけてしまったのだと思うと、なんだか申し訳なくて、慈はもう一度、ごめん、と頭を下げた。 「謝る事ないよ。ちゃんと起きてくれたし。寝てる間にってのも興味なくはないけど、反応あった方がいいからね」  木下の言葉が上手く自分の頭に入ってこなくて、慈は首を傾げる。木下はそんな慈を見て、可愛いな、とその頬に手を伸ばした。 「僕の言ってることが分からないって顔してるね。女の子でも、そろそろ逃げ出すのに……慈くんはこういうことに遭わずに来たんだね。誰かに守られてた?」  逃げるとはどういうことか、守られてたって何が……と頭の中で疑問符を並べている間に、慈の体は木下の腕で再びベッドに押し倒されていた。慈が驚いて木下を見上げる。 「……あの……今まで飲み会、してたよね?」  状況が全く理解できなくて、慈はそう聞いた。木下が、そうだね、と頷く。 「女の子と仲良くなるための席、だよね?」 「うーん……僕にとっては僕の好みの子に出会う為の席、かな? 僕、慈くん、すごく好みなんだよ」 「……いや、いや、待って。オレ、男……」  慌てて慈が起き上がろうとすると、木下が強く肩を押さえつけた。その痛みに慈の表情が歪む。 「でも慈くん、染島くんが好きなんだよね? だったら性別については問題ないだろ。それに、飲み会で知り合って二人で二次会、その後ホテルで一夜を過ごすって……ちゃんと順序に則ってるでしょ」  木下の言葉に慈は息を呑んだ。今更だが選択を誤ったのだ。一見優しそうに見えたこの人を簡単に信頼してしまった自分が悪い。  けれどこのまま木下のいいようにされるのは嫌だ。
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