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【後日談】意地っ張りなきみと幸せな恋を1
滝沢慈はとにかく可愛い。
ふわふわにセットされた艶やかな髪に、小柄で細い体、大きな目に小さな唇が正しい位置で配置された顔はくるくるとよく表情を変え愛らしい。
そんな親友が恋人になってから、一か月が経っていた。
「いじょうに、より、かせつえーが、ただしいとしょうめい……生吹、しょうめいって証明って漢字で合ってる?」
「ん? 他にどの漢字にする気だよ?」
生吹の部屋、向かい側で自分と同じようにノートパソコンを開いていた慈に呼ばれ、傍に寄って画面を見やる。
「え? こっち?」
「そりゃ、アレだ、アレ」
慈の変換した字を見てから、生吹は頭上を指さす。照明、と言うと、慈は、そっちか、と笑った。こんな、ちょっとおバカなところも本当に愛しい。
「よし、レポート終わった! 生吹は?」
「終わってるよ。ちゃんとメールした?」
「学籍番号と名前をタイトルにすればいいんだよね? 出来たよ」
「今日は珍しく順調だな」
「やればできる子なんです、慈くんは」
ふふ、と笑う慈に生吹が腕を伸ばす。可愛くて仕方ない慈に、生吹はいつでも触れたかった。けれどこの時も、慈はするりと生吹の腕を躱し、立ち上がった。
「生吹、オレ今日ゲーム持って来たんだ! ひと狩り行こうぜ」
部屋の隅に置いていた自分のカバンを持ち上げ、中からゲーム機を取り出す。生吹はその様子に短く息を吐いてから、いいよ、と自身のノートパソコンを片付けた。
「飲み物淹れるよ。何がいい?」
「ミルクティー! ハチミツで甘くして」
飲み物の注文まで可愛い。本当なら今すぐにも無防備にベッドなんかに座ってる慈を押し倒してしまいたいのだが、慈は一か月前に襲われかけている。その恐怖心がまだ残っているようで、触れることにも抵抗があるようだった。
好きだからこそ、無理強いはしたくない。
「ハチミツ増量中」
生吹がカップを慈の前に置きながら言うと、慈は嬉しそうに微笑む。
「ありがと、生吹。大好き」
カップを手にして少し赤くなって言う慈が可愛くて頭を撫でる。そのくらいの接触は許してくれるようだ。けれど、それも束の間で、さて、と慈は生吹の手から逃れるようにゲームを手にした。
「亜種がさー、ソロだと全然倒せなくて。生吹手伝ってよ」
「いいよ、どれだよ」
生吹は慈に気付かれないように小さく息を吐いてから、ベッドの下に置いていたゲーム機を取り出す。その隣には、『いつか』の為に買っていたゴムとローションが入った袋がある。その『いつか』はいつ来るのか――そんなことを考えると、少し寂しい気がする。
「どしたの? 生吹」
下を向いたまましばらく止まっていたからだろう。隣に居た慈が首を傾げてこちらを見ている。
「なんでもない。始めようか」
生吹の言葉に、うん、と頷くその顔も可愛くて、今は考えないでおこう――そう思う生吹だった。
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