十一

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十一

 学園祭三日目は先生たちも大忙し。日本経済を代表する「アムウェイカンパニー」の城ケ崎会長より高蔵寺高校へ連絡があり、学園祭の見学を申し出てきたのである。あわてないワケにはいかない。  ホールで開催される演劇フェスティバルを鑑賞したいと意向を述べ、最前列に校長、教頭先生やPTA関係者と並んで座った。  発表の順番はクジ引きで決められ、午後三時過ぎ。二年特進コースの『僕はどうしても君に告白する』が幕を開けた。  ブレザー姿の明日香扮する瑠璃が鈴木扮する司に上から目線で語りかける。 「ごめんなさい。クラスカーストのトップと云われている私と、何もかもほどほどの君とは釣り合いがとれないと思うけれど」  明日香のセリフの後、それが合図のように結城をはじめ、あちこちの席からヤジがとんだ。 「陰キャラがスクールカーストトップだって?」 「超笑える!」 「いいぞ、清掃作業員!」  ゲラゲラと下品な笑いと卑劣なヤジ。  そのときだった。  それを打ち消すように、たった一ヶ所で拍手が起こった。 「遠山先輩、カッコいい!」  本人は必死なのに、ヤジにかき消され、かすかな叫びが響いた。 「クラスのヒロイン!」  悠が必死で手を叩く。するとそれに合わせるように最前列の席で拍手が起こった。来賓の城ケ崎会長が堂々たる態度で拍手をしている。あわててPTAの役員や先生方も手を叩く。結城たちのところへ生徒指導の坂本先生が飛んだ。 「何をしている!」  結城たちは真っ青な顔で下を向いた。  鈴木が客席から見えないように舌打ち。  劇はラストまで進み、カップルになった鈴木扮する司と沙織扮する麻衣子が手を組んで舞台の中央へ進む。  結城たちから一斉に大きな拍手。  舞台の下手からピンクのワンピースを着た明日香扮する瑠璃が登場。  そのとき! 客席からひとりの少年が舞台に駆け上がった。  真っ赤な顔のまま、明日香の後ろに、ピッタリくっついて立った。 「おい、何してるんだ」  鈴木がヒステリックに叫ぶ。  客席の結城たちからもヤジが飛ぶ。 「いつでもどこでも生徒会に意見を言って欲しい。会長はハッキリそう言われましたよね」  悠はマイクもなしに、客席いっぱいに響きわたる大声で叫んだ。 「こっそり、ワンピースに大きな切れ目を入れて恥をかかせようとする行為をどう思われますか? ゴミ拾いやボランティアで、少しでも世の中をしようと頑張っている結城先輩が『陰キャラ』とか『ぼっち』、そして『清掃作業員』と云われている現実をどう思いますか?『清掃作業員』は立派な職業じゃないんですか? 答えてください、生徒会長」  鈴木は真っ青になって立ち尽くす。   「僕、ファミレスの会話、スマホに録音しました」  もはや逃げ場もない。鈴木はワナワナ震えていた。 「私、何も知らない」  沙織の絶叫が響き渡った。 「みんな生徒会長と、結城という下品で見苦しい男やモブの仲間がしたことなの」  沙織は目を血走らせ、髪を振り乱して泣き叫ぶ。  沙織がスクールカーストのトップから転落した瞬間!  鈴木は思考回路ゼロと化してヘラヘラ薄笑いを浮かべ、結城たちは客席でもみくちゃにされていた。  
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