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四
旧校舎は放課後のクラブ活動以外はシーンと静まり返っている。旧校舎のそばに花壇があり、古びたベンチがふたつ置かれていた。
明日香は旧校舎から持ってきたジョウロで花に水をあげ、それからベンチのひとつに腰を下ろした。深呼吸し、寂しげな笑みを浮かべた。
「私ってやっぱりダメだな」
そうつぶやくと、右手の人差し指の先で、そっと両目の縁をぬぐった。
「そ、そんなことないと思います」
後ろから泣き出しそうな声が聞こえた。
明日香はそっと声のする方向へ顔を向けた。旧校舎の正面玄関の前に男子生徒が立っていた。
一年生だとすぐ分かった。間違いなく明日香より背が低い。小柄な体に、明日香と同じく銀縁眼鏡をかけている。おとなしい性格ということもすぐに分かった。
一年の男子生徒は、真っ赤な顔で明日香の方を見つめている。
明日香は少しだけびっくりしたが、何だか嬉しい気分になって口元にかすかな笑みを浮かべた。
「ありがとう」
男子生徒の顏がますます真っ赤になった。
「よかったらこっちへ来ない」
明日香がやさしく手招きしてても、男子生徒は真っ赤な顔で下を向いている。右手に小さなトートバッグを持っていて、パンとパックの牛乳が覗いていた。
「ねっ、一緒にお昼ご飯食べよう」
明日香がもう一度、声をかける。一年生はそのまま、その場に崩れ落ちていた。
つまり、これは失神。
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