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五
ベンチに並んでふたりでお昼。明日香はゆったりした気分になってきた。悠はといえば、失神からは立ち直ったけれど、相変わらず顔は赤く、緊張した表情。
明日香は、いつもの無口な陰キャラが少しだけ快活になった。
「内山悠くんだったよね。私のところ、シングルマザーなんだ」
自分でつくったお弁当を口にしながら明日香が説明した。
「何度か生活保護の申請をしたけどダメだった。福祉事務所に行ったとき、女性の担当者がお母さんに言った言葉を今でも覚えている。
『こうなったのも、ご自分の責任じゃないですか?それを行政に押しつけるんですか?』
お母さん、何度もペコペコ頭を下げてた。どうしてシングルマザーになったか、中学のときに教えてもらった。私、お母さんが悪かったとは思わない」
悠は何も言うことが出来ず黙っている。
「お母さんは、時々、私に見えないように泣いている。私、マッチ売りの少女なんかにはなりたくない。冷たい社会かもしれないけど、前を向いて少しずつ世の中をよくしていくヒロインになりたい。そうすれば最後には、きっと私とお母さんだって幸せになれる」
そう言ってから肩をすくめて笑う。
「と、言うことだけはすごいよね」
ゴミ拾いやボランティアの人たちと公園の掃除、そして親と離れて暮らす子どもたちの施設の慰問……。それが本当に社会をよくすることになるのだろうか? 明日香をヒロインにしてくれるのだろうか?
明日香は結城たちの嘲笑を思い出す。
少なくともクラスメイトは明日香のことを、ヒロインではなく「地味」で「陰キャラ」「ぼっち」、そして「清掃業者」だと思っている。
悠はといえば真剣な表情で、明日香の話を聞いている。昼食のパンに手をつけようとしない。
「内山くんも食事しようよ」
悠が弾かれたように立ち上がった。トートバッグから百枚入りの「消臭ゴミ袋」を出してベンチに置いた。
「ぼ、僕のところも母子家庭です」
そう言って明日香の前から走り去った。
明日香は後を追うため立ち上がった。けれども、その必要もなかった。
あわててたのは悠も同じ。足がもつれて、あっというまに地面に大の字。明日香は悠を助け起こしてベンチまで戻り、ブレザーの汚れを拭き取ってあげた。ティシュで顔の汚れを拭った後、明日香は悠がまた意識をなくしていることに気がついた。
つまり、これは二度目の失神ということ。
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