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②
僕は高校生。部活は入っていない。
「宮田って、彼女いる?」
1学期の最終日、駐輪所で女子に声をかけられた。顔も知らない女子だった。
「ねえ、付き合わん?」
突然言われたけど、よく知りもしないから、
「ごめん、付き合わない。」断った。
「花火、一緒に行く人いないんだよ。お願い。」
「花火好きじゃないんだ。ごめん。」
田舎の高校生だから、イベントは誰かと参加しなきゃいけないような気分になったんだろう。そんな理由で付き合うなんて馬鹿げてる。
僕は夏休みになって、どこにも出掛けていなかった。ずっと、ウチのレジ。パートさんよりも長い時間レジに立っている。
とはいえ、お客は少ない。時々椅子に座って、スマホで漫画を読んだりしていた。
「え、宮田?」
店に入ってきたのは僕に告白をしてきた女子だった。
「あ、この前の…」
「あ、ウチ、金森。」
「…なんで?」
「つか、なんで?」
「ウチ。」
「まじ?」
「うん。」
「へえ。」
「なんで?」
「あ、花火見にきたんだ。寄り道。アイスたべようかなって。」
「ふーん。」
「どこ?」
「あ、そっち。」
花火って、ウチの街の花火だったのか。僕なんか一緒じゃなくても見にくる相手くらいいるってことなんだろうな。あんな下手な誘い方しなくてもよかったのに。
「宮田、なに食べたい?」
「え?」
「奢る。」
「僕、仕事中。」
「いいじゃん。てか、今休憩でしょ?スマホ見てるし。なに見てんの?エロ動画?」
「見ないよ!そんなもん。」
「怒んなよ、で?なにアイス?」
「いらないよ、僕は。早く買いなよ。誰か待たせてるんでしょ。」
「へへ。ウチ1人。」
「え、ひとりで花火?」
「…なんだよ。悪いか。」
「いや。」
金森の手にはパピコが握られていた。
「ウチ、パピコ好きなんだけど、パピコって、シェア押し付けてるじゃん?だから、いつもは買わないんだ。でも今、パピコ食べたくて。」
「そう。」
バーコードを読み込んだ。
「宮田ちょっと外出なよ。お客さんいないし。」
「うん。ちょっとなら。」
外は夕方の空が広がっていて、花火の会場に続く目の前の道路には車の列ができ始めていた。
「宮田、花火嫌いなのなんで?」
本当は花火は好きだった。断る口実で嘘をついたんだ。
「…この渋滞。」
「はは。らしいね。」
金森はパピコのパッケージを開けて、僕に半分を渡してきた。
「でも、ここだったら、見えるじゃん。花火。
ねえ、ここで見てっていい?」
「いいよ。」
告白して、断られた相手にそんなことよく言えるって思った。
「ウチ、本当は彼氏がいる。」
「え。」
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