1人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
④
焼きそばのビニール袋を持って、金森と離れないように人の波の押し寄せる土手を歩く。
「どっかで食べる?」
「うん。」
川辺に降りる階段を渡って、座れる場所に来た。
金森に焼きそばを渡す。
「翔ちゃんは幼稚園でね。」
「うん。」
「翔ちゃんのお母さんは美容師さん。お店はあの商店街にある。」
「うん。」
「翔ちゃんのお父さんは…」
「ウチのバイト先の店長」
金森は焼きそばを口に入れながら言った。
「金森…」
「ウチの彼氏だよ。あの人。ウチのだよ。」
泣きながら焼きそばを次々に口に運んでいく。
「ウチ、本気で好きなのに。なんで?」
「…わかんない。」
僕も焼きそばを食べた。夜風が程よく吹いている。
「焼きそば、おいしいね。」
「アイツ、ばか。こんな時、気いつかってんじゃねーよ」
「ん?」
「歯にのりつかなくて助かる…。紅生姜、多くて私の好みの味…ばか。ばか。」
焼きそばには青のりがかかっていなくて、紅生姜が少し多めに添えてあった。
「…ウチ、バイトやめるわ。」
一発目の花火が上がった。
「花火…上がった。きれい。」
僕には恋人なんていらないと思っていた。ただただめんどくさいって。
「大人ってずるいね。金森」
「…うん。」
一輪ずつ花火が上がる。開いては散る。
「ねえ、金森。なんで今日、花火に来たの?」
「そんなん、花火好きだからじゃん。」
違う。多分。
「宮田って、さとるって呼ばれてんの?」
「え、うん。」
「ウチもそう呼びたい。」
「どうぞ」
2人でずっと花火を見ていた。
なにも喋らず、ただずっと。
「ねえ、また来よう。さとる。」
金森は、恋に終止符を打ったようだった。
スターマインに照らされた顔が夕方に見た顔より大人に見えた。
最初のコメントを投稿しよう!