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Side B
ようこそ夢の世界へ。ここは素敵なところですから、きっとあなたも気に入るでしょう。
まずはこの景色の美しさ。絵に描いたようなビリジアンの森で、フェルトのような小鳥たちが穏やかに安らいでいます。水で溶いたような綺麗な青空があなたの心を奪うでしょう。
そして、何より人柄の良さ。ここの人たちはみんな優しく、いつも笑顔で、どんなときも力を合わせて生活しています。毎日端麗に着飾って、それぞれの仕事を全力でこなし、同時に常に他人の仕事に尊敬の念を抱いています。お互いに感謝の心を伝えあって、見えないところでも美しい世界を作り出しているのです。
さあ、あちらに見えるのが王様の塔です! ほかのどの建物よりも高く、この世界のどこにいても見えるようになっています。ひときわ目立って見えるでしょう。みんな、特別大事にしているんです。
おや、王様の様子が気になりますか?
いつも通りですよ。王はいかなるときも世界のために頑張ってくれています。
彼は3代目なのですが、これまでの誰よりも世界のために全力を尽くしてくれる、素晴らしい王様です。1代目も2代目も途中で自身の役を放り出してしまったのですが、3代目はきっと生涯この役に身を捧げてくれることでしょう。
こら、いけませんよ。彼に甘い言葉を掛けてはいけません。
彼は王様でなければならないのです。
彼は王様であるためにここに立っているのです。
彼は王様であるからここに立っているのです。
彼は王様でなければここに立つことが許されないのです。
ですから。こら! 「無理に理想の王様を演じる必要はない」など、決して言ってはいけないのです!
……ほら。
彼が、街に降りてきてしまったではないですか。
民衆を塔に案内し始めてしまったではないですか。
王族の財産を分配し始めてしまったではないですか。
これではいけません。世界が壊れてしまいます。
3代目は残念ながら降板です。大丈夫。まだ代役が居りますから、すぐに4代目が就任します。役を放棄した街の人々も同様に降板です。あなたが責任を感じる必要はありませんよ。えぇ。役に入り続けた人が残ったというだけです。
さぁ、改めまして。
ようこそ夢の世界へ。ここは本当に素敵なところですから、きっとあなたも気に入るでしょう。
ここの人たちはみんな優しく、いつも笑顔で、それぞれの役目を全力でこなしてこの舞台を作りあげている。さながら優秀な役者です。
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