事件概要

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 事件が発覚したのは、十一月十六日の朝のことだった。X県Y市の山中で、近隣に住む男性が射殺体で発見されたのだ。散弾銃によって左前方から撃たれており、遺体からはスラッグ弾が発見された。ある程度離れた距離から撃たれたと見え、被害者は銃撃後しばらくは生きていたようだ。死の直接の原因は、失血と夜の寒さのためだ。  これは県警にとっては頭の痛い問題だった。遺体発見の前日、十一月十五日は全国的な狩猟解禁日であり、当地でも野山に入っているハンターの数は通常より多い。もし被害者の死因がハンターによる誤射だとすると、動機の特にない容疑者の数がぐんと増えるということだ。  根気強く現場検証すれば加害者の可能性のあるハンターの数を絞ることは不可能ではないだろう。だがそれは、人気のない野山に何時間も留まって不作為の殺人者かもしれないハンターたちの供述を逐一検証しなければならないという意味だ。  特に、この事件の場合厄介なのは、加害者が現場を立ち去っていることで、加害者には被害者を助ける意志はなかったことはほぼ確実だ。ハンターからの聞き取りによる捜査の難航が予想され、それは鎧塚警部の不機嫌にも一役買っているものと思われる。
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