事件概要

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 だが私は、この事件の成り行きから僅かに匂ってくる悪意の存在に、多少は救われるような気がしていたのだ。  通常の誤射事件の捜査が私にとっては困難かつ退屈極まることは、定まった運命のようなものだった。誰も本当には悪くない、不幸な事故でしかなく、事実関係もほとんど明らかな案件に対する捜査の目的は、単に事実関係の明確化と、その記録だ。罪がないとは言えないが、特に邪悪でもない人間を追い詰めるために役所の番犬として駆り出される仕事には、使命感とかやりがいとか、あるいは面白さのようなものは私は感じたことがなかった。  一方の今回の事件だ。この銃撃犯には、自分の過ちを正そうという気はないようだ。そんな人間の邪悪さが引き起こした事件の解決に携わることで、世の中の天秤を少しだけ、正常な方向に傾けることができる。世間擦れした四十過ぎの刑事が抱くには青臭いとでも思われそうな動機だったが、そういう動機づけでもない限り、剣呑で陰気臭くて、しばしば退屈でもある職務に毎日向かい合う気分に自分がなれるとは、私には思えない。厄介ではあるが、多少はやりがいのある仕事になりそうだと、私はそう思っていた。  だがその後の捜査の推移は、私が当初考えていたものとは、全く違ったものになったのだ。
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