42人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
容疑者の出頭・取り調べ
「僕が撃ちました」
彼はそれだけを、小さな声で言った。
「川村伊織。……無職、三十九歳。……近隣の一軒家に、一人暮らし、か」
私はそう尋ねる。若干の当惑があったかもしれない。
容疑者は白いシャツに、折り目のついたズボンという姿で、髪は男性にしては少し長め、だが切りそろえてきたかのように整っている。それもそのはずで、出頭前に町の床屋で散髪してきたとのことだった。ほっそりしていて存在感がなく、ともすると大学を出たばかりの青年のようにすら見えたが、髪はかなりの量が白くなっている。
「凶器の散弾銃だが……君は、猟銃の所持許可証は持っていないな」
「……いとこおじのものです。彼の所持品を盗みました」
川村伊織はそんな風に答えるが、その目は虚ろで、私のことはその目に映っていないかのようだった。
「いとこおじ……川村龍彦か。……つまり、被害者の所持品を?」
私は尋ね、彼は無言の頷きで返答する。彼の表情は、私が被害者の名前を口にしたときだけ、苦痛に歪んだように見えた。
「いつ盗んだんだ」
「前日に、保管場所から。あの人はたくさん銃を持っていましたから」
そう答える被疑者、川村伊織。
これが意味するところは何なのか。
つまり、これは計画性の高い犯行であり、高い確率で殺人だということだ。
「何故? ……どうして君は、いとこおじの川村龍彦を撃ったんだ?」
しかし川村伊織は答えない。その後何を聞いても、この容疑者は黙秘を貫くようになってしまったのだった。
最初のコメントを投稿しよう!