容疑者宅の捜索

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容疑者宅の捜索

 そう、私は彼の家に足を踏み入れたのだ。室内とは思えないひんやりした空気が肌を刺し、外気の冷たい匂いと、室内の籠った匂いが入り混じった匂いが鼻につんとくる。  昭和を思わせる畳の室内に、ベッドが置かれている。古めかしいベッドは今は片付いていて、色褪せたマットレスだけが敷かれていた。このベッドで伊織はアヤノの介護をしていたらしい。ベッドの脇には器具を置いていたと思しき跡が畳に刻まれていた。  それから、伊織の方は布団で寝ていたようで、今も畳の上にはそれが敷かれていた。どうも敷きっぱなしにしていたようだが、こんな田舎の粗末な一軒家での万年床は衛生上好ましくはない。擦り切れつつある畳の屑に塗れた布団に恐れをなして、私は靴のままで室内を歩き回っていた。  伊織の所持品は一つの箪笥と本棚に纏まっていたようだ。経歴は中卒ということになる彼だが、読書の趣味があったようで、何冊かの古い文庫本が本棚には収まっていた。それとガラスの引き戸の内側には、小学生向けの童話の本と、おもちゃのロボット。そちらはずっと動かされた形跡はなく、埃を被ったままになっていた。
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