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「おはようございます」
「ちょっときみ。待ちなさい」
いつも通り警備員に挨拶したら、腕をつかまれ止められた。
……そうか見えてたんだっけ。どうしようか。
「あ、あのう。……あの四階の菊地さんの知り合いなんです。あの腰まで長い栗色の髪が似合う美人の菊地さん。警備員さんは知ってるでしょ? 私は彼女に手伝いを頼まれたんですよ」
とっさについたウソはすらすらとでてきた。
四階のフロアは毎日眺めていた。なぜかそこに行き着くのだ。だから、そこで働く社員の名はだいたい把握している。特に菊地さんは目立つからか、いつのまにか俺は彼女の傍にいることが多い。
「ふむ。菊地さんなら知っている。だが。
おまえのかっこうは変だ」
指摘されて気づいた。俺の服装はティシャツ、短パンにビーチサンダル。たしかに、オフィスに似つかわしくない。
「菊地さんに確認が取れるまでこっちこい。名前は?」
ナマエ。思いだせない。幽霊になってからは適当にユータローなんて名乗っていたけど。それよりも、この流れはまずい気がする。不法侵入で訴えられかねない。
知識にある空手の技で腕をほどき、俺はまた逃げた。
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