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「……流石に無理があったんじゃないか?」 「あぁ、出まかせに怖気付いてこちらに譲るなりしてくれれば儲け物……と思ったのだが、なかなか上手くいかないな。結局手放してはくれなんだ」  それだけの力がある代物ならば、おいそれと人の手を行き来させるわけには行かぬ。そう言って、巡礼者達は首飾りを受け取り、商人達に礼を言って去っていった。 「だがおかげでこちらは収穫があった。と言っても、護身用のナイフ程度だが、路銀には充分だろう」  仏頂面の商人は少し頬をにやけさせる。その手には、巡礼者から摺ったナイフや、中身の少ない財布があった。 「しかし、巡礼者から盗むのは、流石に気が引けるな」 「にやつきながら言う事か。それに彼らも言っていただろう。この世の全ては神の意志。であればこの盗みは、神がやれと命じたも同然。何も気負うことはない」  商人達は二日かけて、ようやく街に辿り着く。仏頂面の商人は質屋を探しに行き、怪我をしているもう一人は、当面の軍資金を工面することにした。  道端で手作りの陶器を売っていた少年がいる。彼の手元にある僅かな金に目を付けると、近付き、適当な陶器の値段を聞く。  少年は純真な目で、久々の客にはしゃぎ、素直に教えた。そこから彼の商売があまり芳しくないことと、彼が人を疑うことに慣れてないことを見抜くと、商人は満を辞して話しかけた。  曰く、  私達は行商人で、他所の街で売れそうな品を探している。  この街を一通り見学した時に、貴方の陶器を見かけた。  とてもいい品だ。何処かの高名な陶芸家が作ったのかと思った程だ。  出来ればまとめて買い取りたいが、それだけの持ち合わせがない。  だからまずは貴方の商品を一つだけ持って別の街へ行き、その素晴らしさを伝えたい。  そして買い取りたいと言う人間を募り、彼らから預かったお金を持って戻って来るつもりだ。  どうだろう、私に一つ、この中から見本用として貸してはくれないだろうか。  少年は大層喜んだ。そしてゴザの上に並べている物の中で、最も形の整っている壺を、期待を込めるように突き出した。  商人は満面の笑みで受け取り、感謝を伝え、必ず戻ると約束し、少年の元を去る。  これで商品を一つ手に入れた。  商人が口八丁でまくしたてれば、これに値段をつける馬鹿は必ずいる。第一、仕入れがタダなのだ。二束三文でもお釣りになる。あの人のいい少年なら、数年音沙汰がなくとも大人しく待っているだろう。そもそも騒いだ所で、その場しのぎで立ち寄っただけの街。また来る予定などありはしない。  手を変え品を変え、それらしく演じるだけで、手軽に商品が手に入る。商人達はそうやって、いつも手持ちを増やしていた。 「神の導き? 笑わせる。今を生きているのは私達だ。行動も、言動も、何もかも私自身が決めるのだ。神にそんな権利はありもしない。自分の行動に自信も責任も持てないようなら、部屋の隅で縮こまっていろというのだ」
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