美和からの手紙

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美和からの手紙

美和が僕との連絡を絶ってから半年がたった頃、美奈が手紙を持ってきた。美和からの手紙だという。引っ越して住所が変わっているかもしれないから直接悠希に送らず、美奈から悠希に渡してもらおうと美奈の家に送ったらしい。 悠希へ  急に連絡を絶ってごめんなさい。あなたの合宿審査の間、ずっとあなたがデビューメンバーに選ばれた後のことを考えていました。交際を続けていくことができるのかどうか。仮に続けていくことができたとしても、それが二人にとって良いことなのかも含めて。 合宿審査から帰ってきた時、あなたの口から別れを切り出す言葉が出てくるかもしれない。そう思ったら怖くて夜も眠れませんでした。怖くて仕方なくて、美奈に相談した時、美奈は「二人の気持ちが固いなら、隠れて交際を続ければいい」と言ってくれました。「そのための協力も惜しまない」と。あなたの親戚である美奈の家を利用して会うという美奈のアイデアなら続けていくことができるかもしれないと私も思い、光がさした気がしました。 でも、あなたがデビューしたら、あなたの周りには多くの女性スタッフがいて、歌番組やフェスでは美しいガールズグループやバンドの女性メンバーと共演するでしょう。そんな姿を見たら私はきっとバイト先の加奈子ちゃんに嫉妬した時のようにまたやきもちを焼いてあなたにみっともない姿を見せてしまうでしょう。そう思いました。そんな自分の姿が容易に想像できました。そんな自分は自分でも嫌です。 あなたのそばにずっといたい。今でもそう思っています。合宿審査から帰ってきたあの晩、私はこのまま時が止まってほしい。そう願い続けていました。でも時は止まることなく、朝はやってきました。  今私はオーストラリアにいます。日本にいたらあなたの影がどこまでも追いかけてくるでしょうし、私もあなたの姿をいつも探してしまうことでしょう。でもそれでは私らしく生きられない。そういえば、私のどこを好きになってくれたのか尋ねることがなかったのであなたが好きな私はどんな私なのかわからずじまいですが、でも、この地で私は自分らしく生きていきます。悠希も夢に向かって進んでください。 そして、あなたが自由に恋愛することができる立場になって、その時まだ私のことを必要だと思ってくれたら、美奈に連絡してください。美奈を通じて私に連絡が届くことになっています。その日が来ることを私は信じて、その希望を胸の奥深くにしまって、ここで暮らしていきます。 あなたの成功を信じています。そしてあなたと一緒に過ごしたかけがえのない時間を生きる力に代えます。あなたもそのように思ってくれたらうれしいです。  また会える日まで。                           あなたの美和より
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