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「サクラも…学校にいたの?こんな遅くまで」
ジャージの足元を見ながら訊ねると、
「やることも多いからね。本番近いし」
伏し目がちにそう言って、缶のプルタブを起こした。
来週の文化祭に向けて更に忙しくなると、アリサも言っていた。
アリサは2日目に上演する舞台で初めてヒロインに抜擢され、台詞もかなり多い。
大道具係のサクラも、昼休みや放課後に空き教室の床いっぱいに道具を広げて作業しているのをよく見かけた。
帰宅部の私は、クラスの出し物であるクレープ喫茶のために紙で花を作るくらいしか仕事がないから、休み時間やバイトがない日には、よくアリサの本読みの相手をしていた。今日もそうだ。
朝学校に行くと、教室の前でアリサが待ち構えていて、非常階段の踊り場まで連れて行かれる。そこで台本を渡されて、相手役の男の人の台詞を読まされるのだ。
私には演技経験なんかないから、信じられないくらい棒読みなんだけど、文句を言われたことは一度もない。
寧ろ『緊張がほぐれるから助かってるよ』なんて、愛嬌たっぷりの笑顔で肩を竦めるのが可愛くて、私はーーー。
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