最初で最後のデート

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最初で最後のデート

 シロは私の家でその生涯を閉じた。他の犬と交流をしていないので恋を知らない。本能としてそれを望むのも当然のことだろう。 「恋人ごっこでもいいから」 シロの手が私の両手を包み込む。男の子にそんなことをされるのは初めてだ。私は思わず赤面して目を逸らしてしまう。 「えっと、ドッグカフェとかいけばいいのかな?」 戸惑う私にシロが苦笑する。 「違う違う。犬じゃなくて、1日だけエリちゃんの恋人になりたい。普通の元気な人間の恋人同士がする普通のデートがしたいだけ」  シロが望む恋人ごっこの相手は、犬じゃなくて私。混乱した頭を頑張って整理する。シロは家族だ。時にはお兄ちゃんみたいな、時には弟みたいな存在。恋という言葉とあまりにも結び付かない。  それに中学から女子校に通っている私は恋愛経験がない。昔から友達は多い方だが、小学校では男女を意識したことがなかった。デートの経験なんてあるわけがないので、普通のデートが分からなかった。 でも、きっとそれはシロも同じ。私にとって一番身近な男の子がシロだったように、シロにとって1番身近な女の子は私なんだ。恋人同士の楽しいデートがシロの最期の望みとあらば全力を尽くすのみだ。 「分かった。頑張ってみる」  恋人らしく、ということでシロと手を繋いで歩き出す。どこに行こうか一生懸命思いを巡らせていると、シロが繋いだ手を5本の指を絡めるように組みかえた。これが俗にいう恋人つなぎだという知識だけはある。  しかし、いくら相手がシロとはいえ見た目は完全に儚げな美少年だ。こういったことに免疫のない私は心臓の鼓動が早くなるのを感じた。
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