最初で最後のデート

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 観覧車を降りた後もキスの余韻は冷めない。私は何も話せずにいた。シロの顔も直視できない。うまく話せない私と手を繋いで、シロは自動販売機の方へ向かう。ガコンガコン、と飲み物が取り出し口に落ちる音が2回鳴った。その直後、冷たい感覚が頬を襲う。 「ひゃあっ!」  シロが私の顔に買ったばかりの冷たいペットボトルを押し当てていた。 「エリちゃん顔赤いよ。のぼせちゃうから、お水飲んだ方がいいよ」  私とは対照的に、シロの顔はもう赤くなくなっていた。透き通るような白い肌。その余裕がなんだか私をからかっているかのように感じて、ついムキになってしまう。 「シロだって、さっきまで顔真っ赤だったじゃない。絶対、シロの方がのぼせそうだった!」  シロはごまかすように笑った。つい声が大きくなってしまった私を諫めるように唇に人差し指を当てる。 「ごめんね、ちょっとトイレ行ってくるから、5階のエレベーター前の椅子のところで待ってて」  そう言うなりシロは歩いて行ってしまう。 「ちょっと、逃げるのは反則!」  シロの後ろ姿に向かってそう言うと、シロが振り返る。手を合わせて、大袈裟な口パクで「ごめんね」と答えられた。その姿にはやっぱり余裕があって、ちょっと悔しい。  こんな子供っぽいことしか言えない自分がちょっとだけ悔しい。シロに信じられないくらいドキドキしている自分に混乱している。さりげなく待ち合わせ場所をここではなく涼しい屋内にしてくれる紳士的なところも、全部かっこいい。思えば手を繋いだ時から、心臓がずっとおかしい。  エレベーター前の椅子に腰かけても、ドキドキはおさまらない。絶対に水を飲んで落ち着いた方がいいのに、ほんのりチョコレートの味がしたキスを忘れたくなくて飲まなかった。 「お待たせ」  シロに声をかけられてはっとする。 「次、どこ行きたい?」 「うーん、そろそろタイムリミットだし、エリちゃんのこと家まで送っていくよ」  タイムリミット。その言葉に冷水を頭からかけられたような気持ちになる。 「ギリギリまで、シロのやりたいことやろうよ」  現実から逃げたくて、何とか声を絞り出す。 「ほら、何でもいいんだよ。あるでしょ、やりたいこと。お父さんとお母さんが結婚式あげた教会に忍び込んで、結婚式ごっこするとかどう?」  動揺のあまり、無茶苦茶な提案をしてしまった。シロの眉毛がぴくっと動く。 「出来るならしたいけど……もう時間ないから」 「ダメ元でも行こうよ。今から行けば、間に合うかもしれないじゃん」  ここから教会までは少し距離がある。 「ダメだよ。外暗くなってから、エリちゃん一人で家に帰すわけにいかない。エリちゃん女の子なんだから危ないし」  最期だと言うのに、自分のことより私のこと。やっぱり、シロは優しすぎる。 「帰ろう、エリちゃん」  シロが私の手を取った。シロも、最期にもう1度我が家に帰りたいのだろう。 「あ、でも、お父さんとお母さん今日帰り遅いって……。ごめんね、2人にも会いたかったよね」  両親はどちらも仕事柄、勤務中は連絡が通じにくい。仮に連絡が取れたとしても、職場も遠いので、今から呼んでも間に合わない。 「謝らないで。エリちゃんに会えたから充分だよ」  シロが私の頭を優しく撫でてくれた。また心臓がトクンと鳴る。そのまま手を繋いで家路を行く。
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