3人が本棚に入れています
本棚に追加
岡野ホテルへは着飾って
「いらっしゃいませ、深井様。
今回もご朝食は和食でよろしいでしょうか。」
「はい、こちらの朝食が大好きなの。」
「ありがとうございます。
ところで、ご夕食はラウンジでなさいますか?」
「今日は中華料理な気分なの。
1人なんだけど、今から予約出来るかしら?」
「はい、承りました。
それでは、お部屋までご案内致します。」
「いいえ、大丈夫です。
1人で参りますから。
ありがとうございます。」
そう言って鍵を受け取り、部屋へと向かう。
ストレス発散に岡野ホテルへ。
私は言葉を思いつくまま丁寧にして、お嬢様が1人で泊まっている様に演じた。
ワンピースは安くても、上品な膝下丈の淡い色。
靴と鞄は茶色で纏め、髪は緩めのシニヨン。
だらしなく見えず、且つ自然体で。
岡野ホテルに踏み入れただけで、普段の冴えない自分から、キラキラしたお嬢様になった気分だった。
部屋の景色は高いビル群に囲まれてあまり良くないが、この時間が私には大事なのだ。
やりたい仕事も見つけられないまま、今の仕事でパワハラを受けた。
実家で泣く事が出来ない分、静かに涙を流した。
何で私がこんな目に遭わなければならないのか。
社会がこんなに厳しいとは思わなかった。
このホテルが好きで頑張って働いて、お金を貯めて来たかっただけなのに。
泣いているうちに笑えてきた。
私はこのホテルに泣きに来ているみたいだ。
「バカみたい!せっかく来たんだから、あんな人達のことで涙を流すのはやめよう。」
最初のコメントを投稿しよう!