第一話 【合理主義】

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第一話 【合理主義】

 「──合理的って言葉あるじゃないですか。あれって意味が曖昧過ぎると思いません?」  目の前の少年が言った。  少年は目を輝かせている。何か良いことでもあったのだろうか。  「例えば僕が学校に登校する時、道草を食って行くより真っ直ぐ最短ルートで向かった方が合理的ですよね? もっと言えば歩いて行くより走って行った方が、走って行くより自転車で行った方が合理的じゃないですか?」  どうやら少年は【合理的】というテーマに沿って話を進めているようだ。  「要はスタートとゴールがあったとして、スタートからゴールまで一番早く行く方法を考える……それが合理的な考え方なんですよ」  少年はそう言ってにこやかに笑った。私はそれに対してどう返せば良いのか分からず、ただじっと少年の目を見つめる。  「──では、人生において合理的な考えとは一体どのようなことなんでしょうね?」  少年はそう言うと、私に背を向けて空を見上げた。  「今日は良い天気ですね。雲一つ無い快晴だ。おまけに心地良い風まで吹いている」  少年は大きく両手を広げた。風を感じているのだろう。  その時、少年の右手首に包帯が巻かれているのが見えた。  「気になりますか、この包帯。この前階段で転んだ時に軽く捻っちゃいまして……。だからこんな場所にいるんですよ」  私が包帯に気付いて疑問に思うことを察したのだろう。少年は私に背を向けたまま答えた。  少年は先ほどからずっと明るい口調をしている。おそらくそこまで深刻な怪我ではないのだろう。  「では、そろそろ僕は行きますね。うん? ああ、さっきの話の続きですか。なに、簡単な話ですよ。人生のゴールなんて皆決まってるでしょ? じゃあ後はそこに最短、最速で向かえば良いだけです」  少年はこっちを向くと、そうやって最後まで笑顔で話してくれた。    「──例のあの事件、最後に立ち会ったのお前だったんだろ? ほら、あの事件だよ。最近ニュースで取り上げられてただろ? 十三歳の少年が総合病院の屋上から飛び降り自殺したやつ。俺も最初聞いたときはびっくりしたよ。近所だから俺も行ったことある病院だったし、何より知り合いが入院してたんだからな。そういや自殺した例のその子、いじめが原因だったらしいんだが、何よりめちゃくちゃ頭が良かったらしいんだ。お前は目の前で飛び降りるところを見たんだろ? 飛び降りる直前になんか話したりしなかったのか?」
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