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第二話 【飼育玩具(ペット)】
──気付けば檻の中にいた。周りに人の姿はない。
檻の中には粗末なベッドと剝き出しの便器だけが置いてある。まるで刑務所の中みたいだ。
少しすると、檻の外から一人の少女が近づいてくるのが見えた。
俺は少女に声をかけようとする。だが、なぜか上手く声が出せない。
少女はそんな俺を見て「かわいい」と一言だけ呟くと、檻の中におにぎりを一つ投げ入れて去って行った。
おにぎりの具は昆布だった。
あれから数日が経った。「数日」と言っても、俺の体内時計だけを当てにした「数日」だ。きっと正確ではない。
俺はまだ檻の中にいる。
どうやら俺はあの少女に飼育されているらしい。
少女はいつも一定の間隔で檻の前に現れる。そして投げ入れてくるのだ。昆布が入ったおにぎりを。
少女はおにぎりを投げ入れる際に、いつも決まって何か一言呟いていく。
一つ前は「あなたは私の家族だよ」。もう一つ前は「好きだよ」。更にもう一つ前は「愛してるよ」……
そんなに俺のことを好いてくれているなら、早くここから出してくれたら良いのに。
あれからまた数日が経った。
俺はまだ檻の中にいる。
ずっと同じ光景、ずっと同じ食料、ずっと同じ生活リズム……
──正直、退屈だ。
檻の壁を何度か蹴ってみた。鈍くて大きな音は鳴るが、ビクともしない。
すると音に反応したのか、突然少女が檻の前に現れた。
本来なら、今は少女が現れる時間ではない。
少女はしばらく俺の方をじっと見つめる。
──すると突然、俺の呼吸が止まった。
息ができない。
苦しい。
喉に何か詰まった感じだ。
俺はパニックになってその辺をのたうち回った。
声が出せないこともそうだが、あの少女は俺の喉に何か細工を仕込んでいるのかもしれない。
俺は自分の死が身近になってきていることを悟り、すぐに少女に向かって土下座をした。謝罪の意味ではない。媚びるような土下座だ。
土下座が通じたのか、突然また息ができるようになった。
そして俺はすぐさま少女の方を見る。
「これは躾だよ。君は家族だからね」
少女はそう言って去って行った。
あれから数か月が経った。
俺はまだ檻の中にいる。
最近はあることについてずっと考えるようになった。
それしかやることが無いし、それしかやる気が起きないからだ。
【──家族と躾、好意と管理、愛情と束縛……。この本来相容れないはずの言葉が共生する関係。それが飼育ペット。この行為にはどれだけの狂気が隠されているのだろう?】
これからも俺は日がな一日それだけを考えて生きていくのだろうか。
そんなことを考えつつ、俺は目の前に転がっているおにぎりを拾い上げ、口に運んだ。
おにぎりの具は昆布だった。
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