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 放課後、件の林へ戻ると、そこに彼女の姿はなかった。  木の傍にある二つの石も、久しく忘れ去られたように表面を苔に覆われている。  しばらくは夢から覚めたばかりの気持ちで、誰もいない石の上を眺めた。  虚構が現実に塗り替わってゆく。  ジワリ、ジワリ。  薬缶の湯が冷めてゆくように。  ヒトの感覚とは不思議なもので。  なんとなく気を引かれて石の影をのぞき込むと、一瞬、西日を受けた何かが草の合間でキラリと光った。  手のひらほどの白い石――。  否、陶器の置物が転がっていた。  彼女の髪とよく似た白練色のヒツジ。  よく見れば、脇に何か書いてある。
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