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 早朝、まだ空の端に宵の名残が滲んでいる時刻。  立春を過ぎたとはいえ、肌を刺す寒さはまだ消えない。冷えた鼻先を襟巻に埋め、ようやく枝に芽を付け始めた木々の下を歩く。  革靴の底を地面が受け止め、湿った土壌がわずかに沈み込む。  いつも通り。  必要以上に早く布団から這い出て、わざわざ通学路から外れたこの林道を通ってゆくのには、さしたる理由もなかった。  さしたる理由もなく、小学生のときも、中学生のときも、朝と夕方にはこの道を通った。  高校に進学してしばらく経った今になって、それまで続けてきた習慣を破るというのが、何となくタブーな気がしていたのかもしれない。
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