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何も眺めるでもなく視線は前方へ。
今朝見た夢などつまらないことを考えつつ足を動かしていると、ふいに視界の端へ気になるものが映り込んだ。立ち止まってそちらを見やる。
道から外れた木の根元。
風変わりな女がしゃがみこんでいた。
頭の先から足の先まで、真っ白な女。
彼女は背に視線を感じてか、腰を下ろした姿勢のまま、気が遠くなるほど緩慢とした運びでこちらを振り向いた。
恐怖。
そんな感情が湧く暇もなく、その雰囲気に圧倒された。
正直にいうと、ほとんど魅了されていた。
雲のようにフワリと裾を広げた髪は、とても染料によるものとは思われぬ自然な白練色で、その下の肌はなおのこと白い。
瞳は泉を映したように静謐で、何色かと問われてもよく分からない。
周囲の霞を紡いで編んだような白妙の衣。
上質な工芸品のように均整がとれていながら、決して派手というわけではない。
彼女だけが現実と隔絶しており、浮世の中で浮いている。
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