episode1-1.愛は、なかった

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 やがてアレクサンドルは力尽きたように私の隣に倒れた。  何度も背中を切り付けられたらしい。  瞬く間に血が滲んでいく。柘榴のような赤で床を染める。  苦しそうな息使い。  互い違いに重なる視線。   もうこれ以上喋れはしないだろう。  何で逃げなかったの?アレクサンドル。  ブラックグリーンの薄暗い瞳で、先にいる革命軍の騎士団でも、死にかけている団長でも、部屋の隅で絶命している侍女でも、何故か涙を流してるマクシムでもなく。  ただ憂えるように私を凝視していた。  口の端には血が滲み、私達はまるで互いを映し合う鏡のようだった。  「大臣に…騙されていた…ようだ。まだ私達は幼過ぎた…んだな…見破る事ができ…ず…すまない…ソフィア。」  そうよ。私達はまだ幼過ぎた。  確かに大臣はずっと不穏だったわね。  全てが見えていたようで実は何一つ見えてはなかったのね。アレクサンドル。  けれどもう喋らないで。  余計に死期が近付いてしまう。  そんな風に見つめないで。  とっとと逃げるべきだったでしょう?  あなたの命は私より遥かに大事なのに。    妃などいくらでも代えがきく存在でしょう?  私達の間に愛など、なかったでしょう?  「ふ…こんな…時でも…君は相変わらず、気高いん…だな」  何が?どうしてそんな顔して笑うのよ。  死ぬ間際に。  もっと早くその顔が見たかったわ。  もう眠いわ……アレクサンドル。  できるならもう少しだけ話をしていたかったわね。  先に逝くわ。  愛など、なかったのに変ね。  こんな事を思うの。  また来世であなたに出逢える事ができたら。  その時は………………  もう一度あなたと………………………
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