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やがてアレクサンドルは力尽きたように私の隣に倒れた。
何度も背中を切り付けられたらしい。
瞬く間に血が滲んでいく。柘榴のような赤で床を染める。
苦しそうな息使い。
互い違いに重なる視線。
もうこれ以上喋れはしないだろう。
何で逃げなかったの?アレクサンドル。
ブラックグリーンの薄暗い瞳で、先にいる革命軍の騎士団でも、死にかけている団長でも、部屋の隅で絶命している侍女でも、何故か涙を流してるマクシムでもなく。
ただ憂えるように私を凝視していた。
口の端には血が滲み、私達はまるで互いを映し合う鏡のようだった。
「大臣に…騙されていた…ようだ。まだ私達は幼過ぎた…んだな…見破る事ができ…ず…すまない…ソフィア。」
そうよ。私達はまだ幼過ぎた。
確かに大臣はずっと不穏だったわね。
全てが見えていたようで実は何一つ見えてはなかったのね。アレクサンドル。
けれどもう喋らないで。
余計に死期が近付いてしまう。
そんな風に見つめないで。
とっとと逃げるべきだったでしょう?
あなたの命は私より遥かに大事なのに。
妃などいくらでも代えがきく存在でしょう?
私達の間に愛など、なかったでしょう?
「ふ…こんな…時でも…君は相変わらず、気高いん…だな」
何が?どうしてそんな顔して笑うのよ。
死ぬ間際に。
もっと早くその顔が見たかったわ。
もう眠いわ……アレクサンドル。
できるならもう少しだけ話をしていたかったわね。
先に逝くわ。
愛など、なかったのに変ね。
こんな事を思うの。
また来世であなたに出逢える事ができたら。
その時は………………
もう一度あなたと………………………
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