episode2-1.今度の人生では幸せに

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episode2-1.今度の人生では幸せに

 *  時々、前世のあの夢を見る。悲しい夢だ。  私は前エヴァンジル国の王妃で、革命の夜に命を落とした。  あの夜は《金星の革命夜》と呼ばれている。  空に煌々と金星が登っていたからだそうだ。  知らなかったのだ。信頼していた大臣に巧妙に操作されていた事を。  私とアレクサンドルが非道で残虐な王と王妃と言われ、人々に憎まれていた事を。  あれは大臣が国王の座を横取りする為に仕組んだ革命だったのだ。  だがそんな事実を今更知ったところでどうにもならない。  王妃だった私と王だったアレクサンドルは、あの日呆気なく殺されてしまった。  どんなに後悔しても、それを取り戻す術はもう何処にもないのだから。    ———領地の中心地から外れた、閑静な一角にあるパン屋。  《ルッカ》という看板が掲げられている。  どこかよその国の言葉で、《運》《運勢》とかいう意味らしい。  まだ朝日が登ったばかりの時刻。開店と同時に外にまで溢れ出す香ばしい匂い。  今日も焼き上がった商品の陳列を納得いくまで施して、「よし!」と頷く。    その時、食欲を唆る匂いに釣られるように、一人の少女が慌ただしく入店してきた。  「おはよう!モナ!わあ、いい匂いっ。今朝は何のパンがおすすめ?」  「ルイ。あら、今日は早かったのね。」  「だって、モナの焼くパンは人気すぎて、すぐ売り切れてしまうんだもの!だから今日は頑張って早起きしたのよ」  この子はルイ。  大きな目と栗毛色の髪が特徴で、飛び抜けて明るい性格。幼い頃からの大親友だ。  不思議と波長がよく合う。    あの革命後———。  なんと私はこのエヴァンジル国の新王朝で新たな生を受けていた。  今16歳なのだが、誕生日からして、どうも殺されたあの夜に今の母親の胎内に宿ったらしい。  確かあの時もちょうど16歳だった。
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