230人が本棚に入れています
本棚に追加
/96ページ
周りにいる平民の同級生なんてまだまだ幼稚で、エスコートの〈エ〉の字だって知らないし、好きな子に意地悪言うくらいの男しかいないから。
とにかく今ではこんな事さえ不慣れで凄く恥ずかしい。
前世でもこんな事するのはアレクサンドルくらいだったし。
「さあ。お嬢さん。これで……貴方が見たかったものが《視える》ようになるでしょう。
————貴方に神の祝福が在らん事を。」
不思議な人。彼が喋ると、何だか今の瞬間だけ雨が止んでいるみたいな感覚がする。
思わず吸い込まれそうな瞳。
金縛りにあったみたいに目が離せない。
………って。早く帰らなきゃ。お父さん達が心配するわね。
「あ……じゃあ、私はこれで……!」
「はい。———ではまた。」
……また?
紳士的に手を振るマテウスを見ながら、私は泥濘んだ雨の中を走り出した。
あの方も私の方を見ている。
目は見えてないだろうけれど、見えてるみたいに。
感傷に浸る。
あの《金星の革命夜》に一体オリアナ様に何が起きたのだろう?
でもきっとあの姿から分かるように想像を絶する思いをしたはずだ。
今の新王朝のエヴァンジル王は、私やアレクサンドルを謀り、革命軍を先導したあの大臣、《ドウェイン》なのだ。
きっとオリアナ様はその身を隠して生きていらっしゃるのだろう。
捕まればきっと殺される。
ここで出会った事は誰にも言わないでおこう。
時間は巻き戻せない。
後悔も取り返せない。
だから今度こそ悔いのないように真っ直ぐに今の人生を生きるだけ。
……オリアナ様。どうかお元気で。
最初のコメントを投稿しよう!